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第35回1000字小説バトル Entry9

Contrast






最初はただの好奇心からだった。

キッチンで料理をしていた私は、ネギを切る手を止めて包丁をじっと見つめた。



――死ぬという事は、一体、どういう事なのかしら?



この身体を巡り続ける2種類の赤い水を垂れ流せば果たして死ねるのかしら?

疲れきっている所為か頭が働かない。脳裏をよぎった考えを、身体は勝手に実行する。

刃を左手首に薄く切りつけてみた。

――ああ、血が流れてきたわ。この程度だと痛みはないのね。

今流れているのは、綺麗な方の血なのかそれともどす黒い方なのか……私には解らなかった。

血は滴り落ちていき、清潔感のある白いキッチンを紅く染め替えていく。



――綺麗なコントラスト。



そんな感想を口にしてから、ふと時計を見る。もうすぐ娘が帰って来る時間だ。

ああ、いけない、こんな時間――私は急いでキッチンの掃除に取り掛かった。







それから私は毎日のように手首を切り続けた。

緩やかに、緩やかに傷口を深めていき、その度に血の流れる量を見ては綺麗だと溜め息をつく。

赤と白のコントラスト。身体の中から垂れ流される私の命。――何もかもが綺麗。

私は生きる事にひどく疲れていた、理由もなく。



――ああ、綺麗……とても、とても綺麗だわ……



けれど、時計がある時刻を差す度に私はキッチンの掃除を始め、娘を迎えるのだった。



――やだ、お母さん! どうしたの手首…包帯?!

――あ……ちょっとね、お料理してる時に手元が狂っちゃったの。



娘は私の言い分を聞いて、ドジくさいわね、と明るく笑顔を浮かべた。

私もそれに合わせて笑い、考え事しながら料理するもんじゃないわね、と頷いた。









私の瞼にはあの紅い床が焼きついている、そして血まみれの自分の手首も。

命が散りばめられていく。

私の、疲れきった命が溶けた紅い水……










私は今日も、キッチンで手首を切った――今度は、ウインナーに切り込みを入れる感じで。

紅い水が溢れていく、まるで尽きる事を知らないかのように。



――あぁ……あぁぁ……綺麗だわ、綺麗――……



何て綺麗なんだろう、ひょっとして、味も素敵なのかしら?

私は自分の血をすすった。夏場に冷たい麦茶を飲むように、ゴクゴク喉を鳴らしながら。

変ね、味がないわ?

私は再び手首に唇を寄せた。血は止まらない。私の身体も止まらない。

やっぱり、味がない。

どうして味がしないの?

どうして? どうして?

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!









――それから私は、いつもの時間に掃除を始めた。

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