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第36回1000字小説バトル Entry11

彼女

 僕には、放浪癖がある。ある程度大きくなってからはそこら中を歩き回っている。国内、国外、そんなものは僕には関係ない。ただなんとなく遠くへ行きたくなるのだ。そして衝動に任せて歩き回っていた。あのカンボジアでも。
 彼女にあったのは田舎の小さな村だった。僕はその時も衝動に任せて歩き回っていた。たまたま着いた先がその村だったというだけだ。腹が減ったので僕は村人にたかってみた。少しの金を払えばそれなりの食べ物を持ってきてくれた。まだ世界に完全にはスレてない、いい村だった。そんな村で食べ物を持ってきてくれたのが彼女だった。
 きれいだった。優しかった。もうそれだけで僕は彼女を好きになった。
 僕は彼女に迫った。一週間粘って、彼女は僕のことを許してくれた。しかし僕の旅費はもう底をついていた。必ず彼女ともう一度会うという約束をして、僕は泣く泣くその村を後にした。
 しかし、彼女とは会えなかった。一年後、僕は彼女を求めて村へ来たのだが、彼女はすでに村にいなかった。そして村は一変していた。人々は皆、金、金、金を要求してきた。
 彼女は買われていったらしい。ある日、日本人の男が来て村の娘を何人も買っていったのだという。
 もう一度彼女に会ったのはベトナムの裏通りだった。彼女は店の前で足を見せて客を引いていた。でも、僕はそんな事は気にしなかった。彼女にいきなり抱きついた。すると思いっきり平手を食らわされた。それでも僕はあきらめなかった。金を渡して、これでどこかに一緒に行こうと、言おうとした。しかし彼女は金を受け取ると言った。
「ありがとう。でも私、エイズなの。」
彼女の僕への最後の優しさだった。
 彼女は変わった。変わらないと生きていけなかったのだ。村にいたって食っていけないのだ。街にいたって仕事はないのだ。
 三日後、彼女は死んでいた。あの金で不良な麻薬を買って使ったせいらしい。
 こうなってしまってはもう、僕にできることは、彼女と交わった男たちがエイズで苦しみながら死んでいくのを願うのみである。

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