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第36回1000字小説バトル Entry12

3本目のアイスキャンディー

「夏来さん、あれがズンドコ遺跡です」

暑さに汗を滝のように流している夏来とは違い、若い岩井は目を輝かせて遺跡に見入っていた。
「随分とふざけた名前だな」
なんという暑さだ。脂肪の厚さが身にしみる。夏来は心の中で呟いた。

「いやぁ、話題のズンドコ遺跡周辺で事件が起きるなんて、ラッキーですね」
ミーハー心丸出しの岩井に夏来は殺意の炎を滾らせた。
事件が終わり、やっと家に帰れると思ったのに、岩井がダダをこねたのだ。


「夏来さん、これがズンドコ遺跡が有名になったきっかけの、変形頭蓋骨です」
クーラーのきく博物館内に入ったので、夏来はほっとしていた。
「やれやれ。これでお前を殺さなくて済んだ」
「何かいいましたか?」
夏来は岩井の言葉を無視して館内を見回った。
館内は狭く、あまり関係のなさそうな遺跡のレプリカまで展示されている。


「この時代に生まれたら、俺のハンサムな顔がつぶれてしまうな」
顎がしゃくれた頭蓋骨を眺めながら、夏来は自分の顔を触った。
「ズンドコ遺跡の変形頭蓋骨は、主に特権階級の女性が対象です」
岩井は、得意げにぺらぺらと答えた。
(この遺跡オタクめ)
夏の暑さで有名なこの地で事件が起きたのは、全部岩井のせいなのでは、と夏来は思った。

「女性がこんな不細工になっていいのか?」
復元図を指差し、岩井に訊いた。
「美の基準は時代によって大きく違います。しかし、これは私の説ですが、彼女達の仕事はシャーマンです。シャーマンの神秘性を高めるために変形させたとの説がありますが、巫女は神と契約した、つまり、「神の妻」としての立場より人間の夫はいらなかったのだと思います」

「そのため、不細工のほうが都合が良かったのです」
極端な岩井の説に、微妙に納得してしまい、夏来は少々自分が嫌になった。


「じゃあ、俺が真実を推理してやろう」
夏来はわざとらしく咳払いをした。
「巫女の頭蓋骨は、変形していなくてはいけない理由があったんだ」
「ええ、不細工であること以外にですか!」

「普通に成長した頭蓋骨を持つ人間は、神と交信が出来なかったのだ。つまり、頭蓋骨を変形させ、脳の成長を阻害させる。古代の人間は、人工的にシャーマンを作り出したのだ」
岩井の眼が輝きをました。
「成長できない脳により、いつでもカミサマに会えたのさ」
夏来はパンフレットをゴミ箱に捨てた。
「夏来さん、すごい推理です!」

「バカ、信じるなよ」
夏来は本日4本目のアイスキャンデーを口に入れた。

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