第36回1000字小説バトル Entry13
子供の頃、私は何も知らなかった。
そう、何も知らなかった。
「未だ中学生」だという自覚もなく、「既に大人」なのだと勘違いしていた。
大人達の世界はとても稚拙に思えたし、何よりも自分の世界はそれを遙かに勝ると思っていたのだ。
…それこそが無知であることも知らない、そんな子供だった。
まわりに同調し、孤立してはならないと必死に思い続けながら、
そんな状況の中でも尚まわりを見下していた自分。
それこそが幼稚である証拠にも関わらず…だ。
子供とは馬鹿なものなのである。特にこの年頃は。
そして、その中にまばらに混じる本当に大人であるものの存在。
それは私達子供を戸惑わせた。
近寄り難さと、表現しがたい嫉妬と、そして憧れを抱かせる存在が。
クラスに一人、居たのだ。
誰とも群れず、そして誰もが持たない雰囲気をその身に纏った者が。
「恵理」というその少女を、しかし当時の私は好きになれなかった。
理由はとても簡単なものであったと今の私は振り返る。
それは彼女が「大人」であったからだ…。
それは私の、子供の嫉妬。
私達は遠目にしか彼女を見ることは出来なかった。
憧れの念を抱く者、理由のない嫉妬を抱く者、近付きたがる者、そうでない者。
とにかく、異質に映ったのかもしれない。
同年代であるはずの彼女はしかし、まるで違う世界に住んでいるようだったから。
彼女に触れてしまうと、自分の大きさというものが分かってしまう気がしたから。
そして、私個人のこととして言えば…それが初恋だったから、かもしれない。
異質に映ったのは、それは私が今までにない感情を恵理という少女に抱いたからだ。
そしてそのわけの分からない感情に苛立ち、彼女の放つ雰囲気に嫉妬した。
今なら分かる、あの淡い感情。
30歳という年になり、同窓会で会った彼女に、私はそんなことを考える。
ああやっと、私も大人に近づけたのだろうか。
彼女は華やかな微笑みを私に向けた。