第37回1000字小説バトル Entry11
去年、兄が死んだ。族の頭だった。
一弥の死は交通事故だった。一弥はその日、やけにスピードを出し、カーブを曲がりきれず単車ごと吹っ飛んだ。即死だった。
あたしは、冷静だった。
一弥とあたしが作った族『桜蛇悶』の権力は、一時的にNo.3の尚志に移った。仲間の中から、妹のあたしの男だからだ、の声が聞こえた。尚志には、一弥のようなカリスマ性はなかった。
桜蛇悶は小さなチームから始まった。周囲のチーム、レディースを取り込みながら大きくなり、その頂点にいたのが一弥だった。あたしは、一弥の苦労を見ていたし、一弥は女のあたしが頭になることに反対だった。それらのことがあって、あたしは頭になることを拒んだ。仲間の半分は頭になることを望んでいた。
チームはあたし、尚志、その他の三つに割れていた。尚志は、あたしが頭になってもチームを操れるだろうと思っていた。今、分裂するのは危険だった。よそ者が縄張りを狙っていた。あたしは一弥の代わりは嫌だった。
学校帰りに、男が前方に立っていた。単車には「愚零恕」のカッティングが入っていた。うちと同じぐらいの勢力を持ったチームで、縄張り争いの主である。
「お前が桜田門百合か?」
「ああ。」
「桜蛇悶は潰す。」
男は静かな眼をしていた。兄を思い出す。
「今あたしを殺ればいい。簡単だ。このビルの陰なら邪魔は入らない。」
男の眼はあたしの提案を無視した。自分の信念以外は一切信じない。こいつは若い頃のあたしたち兄妹だ。
「愚零恕にはお前みたいなやつがいるのか。だったらいいよ。桜蛇悶はもう桜蛇悶じゃない。一弥と一緒に死んだんだ。好きにするがいい。」
あたしは笑顔を作った。単車の影から何か見えた。花束だった。
「一弥に」
あたしは驚いてしまった。木刀が出てくるかと思った。花束ほど似合わないものはなかった。
「死んだのはお前だろう。」
そう言って男は消えた。涙が出てきた。大きな花束は私の顔を隠してくれた。私の情熱は、兄と一緒に死んだのだ。
それからすぐ、私は桜蛇悶の頭になり、桜蛇悶を解散させ、尚志とも別れた。残ったやつらは、新しいチームを作ったり、これを機会に更生したり。尚志も意外にさっぱり別れてくれた。桜蛇悶は兄のようにあっさり消えた。
揉め事がほとんど起こらなかったのは兄の功績だと思う。
あの男と兄の関係は結局わからないが、彼もまた、新しいものを作るのだろうか。
あたしたち兄妹に負けないなにかを。