第37回1000字小説バトル Entry23
目を覚ます。また仕事の夢を見ていた。何事もなかったように少しはにかんで仕事をしている私がいた。自分でその道をひき返し選んだのに、もう戻らなくていいのに、なぜうなされるのだろう。何度すすいでも内側から染み出る匂いと色。この芯の汚れた絵筆のような過去を完全に綺麗にしなければ、と私はもがく。ヘリコプターの音が聞こえる。
また誰か搬送されているのだろう。まだ誰かであることを願う。目覚めたのはその羽音のせい。もしカブトムシがヘリコプターと同じ大きさだったら羽音はどのくらいだろう? と考える。
午前三時半を過ぎるのを待って、私はカーテンを十センチほど開けて外を見る。窓の外に広がるコンクリート敷詰めの駐車場を見下ろす。ここは病院なのかもしれない。
駐車場にはモルト樽のコンテナ花壇が置いてある。偽善者め、と呟いてみる。それは元々モルト樽ではない。最初から花壇になるために生まれたのだ。その中に植えられている半分枯れたツツジは、枯れていない半分に花を咲かせた。あんたは強いね、と呟いてみる。
空が白ける時、ずっと前から朝だったように存在する朝に私は腹が立つ。だけどそこは確かに暗闇ではなくてずっと前から駐車場だった。私は目が不自由なのだ。暗闇が駐車場になる瞬間を確かめて、私は私自身のちっぽけさを身に染みさせて、それから外にでる。陽が昇る前にこっそりと。
住宅街をおもむろに歩く。私は捜している。あの人が教えてくれたのだ。
「彼らに会いたいのなら午前四時」
言われたように今ちょうど四時。えもいわれぬ緊張に速足になる。
草にまみれた建築予定地、商店の横路地、誰かが寝静まるカーテンの閉まった家の縁側、玄関に木材を打ちつけられ死んだとみなされているもの――その周りに目を凝らす。彼らに会えた時、きっと全てが解決するのだ。私は尋ね回る。
だが会えない。
(陽がもぞもぞと身支度を始める)
会えなかった。
会いたくないものにはひどく出会うのに!
私が会いたいものは望むと同時に消えてしまうのかもしれない。それとも私の目が不自由だから?
「ほらね、もう、分かったでしょう?」とあの人が出てきて言う。
私は分かったふりをして微笑む。次の瞬間強く突き飛ばされる。また仕事の夢を見る。廻る廻る。ヘリコプターがうるさい。
ざらざらの舌で舐められ私は目を醒ます。回転が止んだらしい。
もう出よう。次に乗るのをやっと見つけたから。