第37回1000字小説バトル Entry39
『毎度ありがとうございます。こちら夕焼通販でございます。商品がお決まりの方は1、カテゴリーで選択される方は2……』
資格も特技も展望もないまま、勢いだけで退職した俺は、元手と体力の必要ない頭脳犯罪、詐欺師への転身を志した。
『……そのカテゴリー選択には、紹介者の会員番号とパスワードが必要です。会員番号とパスワードを入力する場合は1……』
とりあえず胡散臭そうな方面の社交場に行って、人づてにプロを捜した。
「ヨーリョーだと思ってはいかん。本気で、自分も周囲も世界も宇宙も巻き込んで、全知全能をもって欺くことだ」このありがたい御言葉を聞き出すために、二晩の飲み代が消えた。
ここで「捨てる神あれば拾う神あり」という原則に基づいて、怪しい男(三十代、独身)が登場する。怪しい男は薄気味の悪い微笑みを浮かべつつ「だんな、だんな、悪人に成りたいんだって」と話しかけてきた。
「オイラもね、ちょいとやったんだ。サギ。これもねえ、けっこうたいへんで……」
『会員番号、パスワードが確認できました。これより先は、美人オペレーターがお相手します。しばらくお待ちください』
「……まあ、度胸と無神経さは買うけど、しゃべりがなあ。おしいんだなあ……そうだ、いい手があるぜ。だんな、ここに電話してみないよ……」
『……お待たせ致しました。美人オペレーターの加東山フミです。デイビット様のご紹介で、二枚舌のご購入ですね……大丈夫です。皆さん初めてですから。詐欺師の基礎的な資質というと、演技力とか口先の上手さだと思われがちですが、虚弱な正義観と軽薄な倫理観さえあればやっていけます。お客様の場合、強欲さも道徳観の欠落も申し分なしです。あと少し話術を補えば、もう向かう所敵なしです。この二枚舌さえ手に入れて、今の舌と付け替えれば、話術は思いのまま。ガッポリ儲かること受けあいよ。それに、この二枚舌は着脱式だから、いつでも簡単に元の舌と入れ替えられちゃうの。だから、平日は二枚舌でパチこきまくって、週末は元の舌でクオリティーライフを満喫なんてこともできちゃうってわけ。万一サツにぱくられたって、調べ室で元の舌に戻って泣きついちゃえばOK。うまくすれば、二重人格で無罪放免よ。専用ローションも付いてくるから、初回から違和感は皆無。相手に気づかれる心配も無し。現に私、今も着けてるの。気付かなかっ……』
ガチャッ。
無能な美人オペレーターである。