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第37回1000字小説バトル Entry40

子供の味方

 俺の目の前で、子供が泣きじゃくっている。十歳くらいの少年だ。俺が常磐線のシートで新聞を全開にして読んでいたら
「どうして新聞広げて読むのかなぁ、隣の人かわいそう」
なぞと大声で抜かしやがるので、
「じゃかあしいこのガキ!」
と掴みかかったら、泣き出したのだ。
 この車両の乗客は――子供の母親も含めて――全員隣の車両に逃げ出してしまった。子供を助けようなんて奴は一人もいない。まあしょうがない。だからこそ、俺みたいな人間が必要なんだ。

 俺は少年の胸倉から手を放すと、シートに座らせてやった。そして、少年の前にしゃがんで言った。
「坊主、正直に言っていいぞ。俺が怖いか」
少年は、しゃくりあげながら小さくうなずいた。
「じゃあ何であんなこと言ったんだ」
「だって……お母さんが言いなさいって……大きな声で……」
 やれやれ。近頃の親ときたら鈍感で、こんな危ないことを平気で子供に言わせる。そのくせ、身を張って子供を助けたりはしない。
「いいか、よく聞けよ」
俺は諭すように言った。
「お前たち子供は、大人より立場も力も弱い。大人の癇に障ったら、絡まれたり、殴られることもあるんだ。もし危ない目にあっても、誰も助けてくれないぞ。わかるだろう?」
少年はこくんとうなずいた。少し怯えている様だが、もう泣いてはいない。
「だから、何をしたらマズイのか、自分で判断しなくちゃならん。親なんか頼っちゃダメだ。自分の身は自分で守るんだ」
そのとき初めて、少年は口を開いた。
「おじさん、本当はいい人なの?」
俺は、少し考えてから言った。
「いい人じゃないな。でも、子供の味方だ」
「こどものみかた?」
「坊主みたいな怖いもの知らずの子供に、大人が危ない生き物なんだってこんな風に教えてやるのが、俺の仕事なのさ。泣かせてすまなかったな」
 少年は顔を上げた。大きく見開かれたその目は、もう俺を恐れてはいなかった。
「さあ、向こうで心配しているお母さんの所に行ってやれ。お母さんが逃げたからって恨むんじゃないぞ。大人なら危険を避けるのは当たり前のことだ。許してやりな」

 隣の車両で母親が少年を抱きしめるのと同時に、電車は駅に着いた。俺が電車から降りると騒ぎを聞きつけた駅員がやってきたが、IDを見せたら軽く会釈をして立ち去った。
 さっきまで乗っていた電車がホームを出てゆく。その車両の窓越しに、母親に肩を抱かれた少年が俺に向かって小さく手を振っているのが見えた。

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