第37回1000字小説バトル Entry41
六歳とか七歳とかの小さいときに、原っぱを駆け回る僕の目の前に白いボールが落ちてきて、それから、すいませーん、という声が聞こえてきた。声のしたほうに目をやると、そこにはまぶしい空が広がっているばかりで、誰もいないし何もなく、ボールを真上に放り投げてみても、誰の手にも渡らずにすぐ落ちてくる。投げては落ちてきて、また投げてはまた落ちてきて、何度繰り返したって、同じことになるだけだった。
身長よりもボールの飛ぶ高さのほうが、自分が成長していく目安になった。
中学校に入り、投げたボールをキャッチするためにグラブを買ったら、ついでに野球部にも入るということになった。高く投げるのは得意でも、ミットめがけて投げるのが得意なわけではないし、スタミナだってぜんぜんない。ようやく出番が回ってきたのは中学校三年のとき、7回の裏2−2の同点で2アウト満塁のピンチという場面でのことだった。監督はしきりに僕の度胸というものを強調し、僕もそれに乗せられて意気揚揚とマウンドへ向かった。思い切り腕は振れて、気持ちが指先からボールに伝わっていくのが分かったのだが、結局15球投げた末に歩かせることになった。
次の打者にも四球を与えたところで監督がベンチから立ち上がり、僕は監督にうなずいて、マウンドを降りた。重苦しいベンチを通り抜けてロッカールームに入りカバンを取ってきて、そのまま球場を出て駐輪場に向かい、自転車にまたがった。
いける、という確信があった。
自転車を停めてから、カバンを持って原っぱに向かった。平日の昼間だからそんなに人も多くない。ボールを取り出し握り締め、空のまぶしさに目を細め、思い切り真上に放り投げた。高く高く飛んでいき、ついには見えなくなりそうだと思ったらまた急速にボールは落下してきて、僕のかまえた両手の中に勢いよくおさまった。手がしびれた。
呼吸を落ち着かせ、サングラスをかけて、空を見上げた。ボールの縫い目に指をあわせ、地面に手がついてしまうぐらいに思い切り振りかぶり、やっ、とひと声あげて投げ上げた。はじけるように空へと向かい、高く飛んで、さらに昇って、僕は唇をかみしめて、そして、ボールは空へと消えた。両手をかまえて待っていたけどボールは落ちてこなくて、さらに待ったけどやっぱり落ちてこなくて、その代わりに、ありがとうございましたー、という声が降ってきた。
大きな声で、おう、と応えた。