第37回1000字小説バトル Entry42
一人は野太刀を右車に構え一人は右手で打刀の柄を握り左手で脇差に手を沿え二刀抜刀の様相を見せる。相手に体右側面を向け十字を描く両腕のうち右側を上にしていることにより読者にも相手にも打刀から脇差と流す二連抜刀であることが予想出来る。
野太刀が出来の悪い大き過ぎる月の後ろから放射される黄色の偏色光によりいやに生生しくぎらりと光る。
じり。
じり。
一瞬の破裂光。
読者はそれが二人の下手糞な殺陣を誤魔化す為の筆者による演出だと知る。
野太刀の方が演技を中断し右手の人差し指を注視する。そこには女性器における大陰唇のような形に肉がぱかりと割れており陰裂の奥の小陰唇に当たる部分には白い骨が薄く見えている。間も無く噴水のように血液がぴゅうと飛び散り一瞬の後河川の源水のように濁々と流れ出す。
野太刀の方の口が「あ」か「か」か「た」か「な」か「は」か「や」か「ら」かそれに付随する濁音等の発音時の形に固定され喉仏は大きく震えている。
打刀脇差の方が表情筋の攣ったような顔でスクリーンの方を見つめ何やらむにやむにやと口を開く。その内にこれが無声小説であることを思い出したのかセットの裏に転がっていたホワイトボードと黒ペンを持ち出し意外や意外なかなか細やかな美しい字体で筆者読者に訴え掛ける。
「本物の刀ではないですか」
当たり前だ馬鹿野郎。このつんつるてんのツクツクホーシめが。小説に役者も芝居も無い。殺陣は「絶て」であり「殺人」である。
筆者の無情なる言葉を読み打刀脇差の方はその表情に暗い蔭を落とす。
野太刀は未だ喉を震わせ続けておりその振動に共鳴したらしき書割がバタンギギギギバリバリと無声小説である筈なのにも拘らずそんな擬音を読者の心に浮かばせる程視覚的豪快に倒壊する。
ここまでの大声量を発して野太刀の鼓膜及び神経及び咽喉部及びごく近くで拉がれている打刀脇差の鼓膜及び神経は無事であるのかと心配される心優しき読者諸兄もおられるかも知れないので記して置くが、この二人には元より耳が無い。穴も無い。これが無声小説であるが故必要無いからである。
処置により野太刀の出血がようやく止まった虚構内時間にして半刻の後二人は再び対峙し合った。まったく腰の引けた二人はそれでも対峙し合わなくてはならない。その理由は未だ明らかにされずこれからもされないであろう。
僅かな緊張感。間も無く二人は文字数外の永久の対峙に入る。