←前 次→

第37回1000字小説バトル Entry6

見張りをしていたはずのガードマンが

 見張りをしていたはずのガードマンが金庫の鍵を開けると、今日の業務を終えた看護婦が私服に着替えていたことに驚き(少なくとも白衣はあったが紙幣は見当たらなかった)、思わず、友人の結婚式の引出物に頂いた(今時、そんなの有り?)友人の顔写真をプリントしたタオルを差し出して(洗いすぎて色落ちしたのか、のっぺらぼうみたいになってたけどね)、自分はガードマンであることを看護婦に示そうとしたが、時間切れでドアが閉まってしまい(おいおい覗き部屋じゃないんだからさ)、慌ててタオルを振ったところで、それは腕の疲れを増しただけだった(結局、看護婦は出て来なかったっけ、本当に看護婦だったのか?)。だから、金庫の中で看護婦が窒息死しているのではないかと思い(二度と金庫の扉は開かなかった)、彼女が金庫から出てきたときに不自由のないよう(だから、彼女は看護婦なんかじゃないんだってば)、タオルを見えるところに置いて(ここからじゃ見えない)、その場を立ち去ったヌルハチは右手に試験管を携えていたので、ドアの把手に左手を伸ばして診察室に足を運んでみると(彼の第一歩はつねに右足である)、机の上ではビーカーがアルコールランプで熱せられていて、中では、今朝、釣ったばかりの金魚が病気でも患ったのか、真赤な顔して仰向けになって水面から腹だけ出して浮かんでいた。ヌルハチは診察室のドアの前で廊下側に顔を向け、プカプカしていた金魚をお盆に乗せて佇んでいたが(天麩羅にでもしようというのかい。ところで、次の授業は実験じゃなかったっけ?)、実験でビーカーが必要であることを思い出したのか、ドアの先へ進んだりして(廊下の電気は切れていた)、彼は廊下が真暗だったので慌てて部屋に戻ったが(彼は明るい光に反応して進んだり、方向転換するものらしい)、人間という生き物はベッドで寝ているときはパジャマを着るものだということを病室で生活しているガードマンが制服ではなく、パジャマを着ている姿を見て、自分の考えを改めたのだった。ビーカーの中で寝ているときは、自分の手がベッドの代わりとなり、心地よく眠れるために、起床の時間に遅れてがちだが、今日に限っては、制服を着るのも忘れて階段を降りていると、看護婦がこちらを覗いていたが、ヌルハチと目を合わせた彼女は頬を桃色に染めながら、両手で布団を抱えていた。

←前 次→

QBOOKS