第37回1000字小説バトル Entry7
最近、天使をよく見るようになった。水鳥のような翼に飾りものの光輪を載せた彼等は、聖書の挿絵そのままで、気安く増えるところなんかは本当にそっくりだと思う。
雑踏に足を休めていれば挨拶の一つでもしてやるといい、きっと呑気な彼等は笑顔で挨拶を返すだろう。けれど、私はあまり彼等が好きにはなれない。
理由は多分、酷く個人的なものだ。
「どうしたの? なんだか気分悪そう」
外を眺めていたところにひょっこりとアズサが飛び出してきた。背中の翼が四角く切取られた鉛色の空を遮る。
時間と空間が逆行していることが観測されてから三十年。沢山の学者が頭を捻って喧々囂々の議論をしてけれど打開策は今も見つからない。
解ったことといえば、人間の死後は天使になるらしいということぐらいだ。
「いや、最近また増えたなと思って」
「何が?」
「あれだよ」
アズサが視線をたどる。レイルウェイ、さらに遠くの切立った山、そして、また手前を見る。それからああ、とアザサは短く同意した。
「そうね、最近はもう当たり前になっちゃったね。昔はちょっと増えるだけで結構騒がれたらしいけれど」
アズサは今じゃすっかりね、と曖昧に言葉を止める。私も短くそうだなと返した。
「お茶入れるね」
「うん。――あ」
「ん、何?」
「いや、何でもない」
また天使が墜ちた。潰れるというよりは、何かが砕けるような音が小さくした。つい杞憂してしまったけれど、どちらにしろアズサにはその痛ましい姿は見えないだろう。
遅れて舞い散る羽に、小さく祈りを捧げた。