第38回1000字小説バトル Entry20
旅人はある大きな葉に出会った。
その葉はとても大きく、旅人の身長の倍は優にあった。
しかし葉に見合う大きな樹は、どこにも見当たらなかった。
旅人は葉に尋ねた。
「あなたは大きな身体だ。あなたの大きな大きな樹は、いったいどこに」
葉は大きな大きな声で答えた。
「旅人や。私の付け根を見て御覧」
旅人は見つけた。葉の大きな身体の下にある、葉の大きな付け根に繋がった、小さな
小さな枝のような樹を。
「私には、小さな身体のあなたが大きな大きな葉を付けて、とても苦しそうに見え
る」
樹は小さな針のような声で答えた。
「苦しくないとは言えないよ。でも、私の大事な葉だから」
旅人は言った。
「でも、このままでは、あなたはきっと死んでしまう」
樹は言った。
「……あなたに頼みがあるの。私の声は小さいので、とてもあの子に届かない。だか
らあなたは私の言葉を、そのままあの子に伝えて頂戴」
旅人は頷いた。
「あの子は死のうとしているの。今夜死のうとしているの。私はあの子を死なせたく
ない。でも私の声は小さ過ぎて、とてもあの子には届かないの」
旅人は考えた。
樹の頼みを聞いたなら、樹も葉も両方死んでしまう。
聞かなかったなら、葉は一人で死んでしまう。
旅人は何も言わず、葉の前へ戻った。
旅人は葉に言った。
「今日はもう遅いし、この近くには宿も無い。良かったら今夜はあなたの上で」
「そんなことならお安い御用」
旅人は葉の上に転がって、葉に話し掛けた。
「あなたの死は、私が看取るよ」
「……ありがとう」
葉は大きく身を振るわせ、樹から身体を切り離そうとする。
その勢いは突風のようで、葉の上にいる旅人は、直ぐに振り落とされてしまった。
「……離れない」
離れない。葉がいくら身を振るわせようと、樹と葉はがっちりと結び付いており、離
れる様子はなかった。
朝になり、眠れぬまま葉の傍にいた旅人が口を開いた。
「死ねたかい」
「死ねない」
旅人は立ち上がり、軽く身体を伸ばした。
「樹が、死んで欲しくないと、言ったのか」
「さあね」
その辺に抛ってあった荷物を背負う。
「知らないよ。私は」
「そうか」
「一夜の宿をありがとう」
旅人は樹の元へ向かう。
「だいぶ、疲れたんじゃないのかい」
樹の声は、昨日よりもさらに細くなっていた。
「…………」
「それじゃあ、私は行くよ」
「……ありがとう」
旅人はゆっくりと首を横に振る。
そして、旅人は旅に戻る。
残されたのは小さな樹と大きな葉。
これから朽ち果てていく
ひとつの命。