←前 次→

第38回1000字小説バトル Entry21

帰宅

ミキオは引っ越しをした。

 そのせいで、今まで駅から歩いて10分だったのが、20分になった。しかし、単 純に時間が倍になっただけではない。今度の家は、辺りに全く民家のない山奥であっ た。近所では『千葉の樹海』なんて呼ばれており、町から少しばかり脇道にそれて1 0分程歩くだけなのに遭難者が絶えなかった。自殺の名所としてワイドショーにも取 り上げられた。ミキオの家はそんな山奥にひっそりとあった。

 そんなある日、いつものようにミキオは家路へと駅からブルドーザーを走らせてい た。(なぜ、ブルドーザーなのかと言うと、普通の車では道が悪くて走行不能のため である。ブルドーザーは1台でもかなり自転車置き場を占領してしまうため、駅では 反対の署名運動が行われていたが、ミキオはそんな事お構いなしであった。)その日 はどうもエンジンの調子が悪かった。いまいちスピードも乗らない。そして、とうと うブルドーザーは止まってしまった。
「やれやれだぜ」
ミキオのちょっとカッコ付けたセリフは、山の中に寂しく響いた。

「歩くか…」
道は悪いが歩いても10分である。仕方なしにミキオは登山靴に履き替え歩き始め た。少し進むと、だんだん吹雪が激しくなってきた。言い忘れたが、千葉県なのにこ の山のみ1年中豪雪地帯であった。それでもミキオは当たり前のように歩き続けた。
そして10分が過ぎた。
「変だなぁ。もう着いてもおかしくないハズなんだけど。まさか迷ったのかなぁ…」
こんな時は、無理に動かない方がいい。ミキオは鞄からスコップを取り出すと、あっ と言う間にかまくらを作り、中で一晩過ごす事に決めた。かまくらで一晩過ごすのは 今月に入って5度目だった。

「しまった!替えのワイシャツを忘れた」
非常時用に常に替えのワイシャツは2枚持って歩いていた。しかしこの日に限って、 アイロンをかけてそのまま忘れてきてしまったのだ。
「やっぱり家に帰らないとダメか」
とは言ったものの、明確な帰る手段があったワケではなかった。
その時だった。遠くから犬ゾリの音が聞こえた。ミキオがかまくらを飛び出すと、そ こには犬ゾリに乗った兄の姿があった。
「兄さん!」
「こんな所で寝てっと、風邪引いちゃうよぉ〜ん」
 ミキオは兄のソリで家路へと向かいながら「俺もブルドーザーはやめてソリにしよ っかなぁ」なんて考えていた。と同時に、「兄はこのソリと犬達を駅のどこに置いて るのだろう」という疑問にもおそわれた。

←前 次→

QBOOKS