第38回1000字小説バトル Entry22
このところ体は、とても疲れていた。
髪を切り、マニキュアを変え、口紅の色も変え・・・
今日は、携帯のストラップをお洒落なものに交換した。
そんな自分勝手な気まぐれだけが、つかの間の安らぎとなり時間の流れを新鮮に感じ
させる。
今日は何となく真っ直ぐ家に帰りたくなかった。
いつも帰る道とは反対の方向にトボトボと歩くと路地にBarの看板が目に止まる。
「バー 時計」
その名前に引き込まれるように、次の瞬間に店のノブを握っていた。
店の中は、少し暗かった。
3人の男性客は、お互いにカウンターで距離を置いて座っている。
空いている席に目を移そうとしたしたその時、男と目を合わせてしまった。
「こ、こんばんは〜」
恥ずかしさを隠すように挨拶をすると、男は声を出さず軽く会釈を返してくれた。
男というよりも紳士といった方がピッタリとする感じで、きっちりとブランド物のス
ーツを着こなし、派手ではあるがいやみのないネクタイを締めている。
「お連れがいるのかな?」
「いいえ・・・」
「では、ご一緒に飲みませんか?!」
女性を誘う一連の動きがとてもスムースで慣れている感じがしたが、下心は感じさせ
ない。今は自分の事を何も知らない人間の方がいろいろと話せるのかもしれないと、
警戒心はまったく抱かなかった。
「私が何かご馳走しましょう」
紳士はあたしに注文するように促す。
「え〜と、何がいいかな」
今日は、がんがん飲んで現実の世界を振り切りたい気分だった。
「スクリュードライバーをお願いします」
この“スクリュードライバー”は、口当たりがよいので飲みすぎてしまい、酔いが回ってしまうのだということを忘れていた。
「乾杯〜」お互いに微笑みを投げかけあいながら、グラスを合わせる。
一杯目は、恥ずかしさを消すために一気に喉に流し込む。
2杯目は、お互いを探る時だった。
時計の針は、グラスを空けると共に無情にも何もなかったように時を刻む。彼とスク
リュードライバーを飲む時は、そんな時計の音すらも聞こえないほどの楽しい時間だ
った。
でも今はどうだろう??
―この音が無性に憎い。
―同じ時という時間なのにこころが痛くて苦しいよ。
―こんなわたしが満たされるのはやっぱりあなたからの愛
―求めちゃいけないの?
―あたしは、あなたに愛されたいのに・・
「マスター、モスコミュールをお願いね !」
彼への想いを断ち切るようにカクテルを替えた。
「どこか連れて行って お願い!」
既にグラスは空だった。