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第38回1000字小説バトル Entry7

強がり

 シャーッ、ブリッ!
「ねえ、亜紀は彼氏いる?」
 ブリ、ブリブリッ!
「ねえ、聞いてる?」

(まただ。先輩の悪い癖!)

 ブリッ、プリッ!
「彼氏の携帯見ちゃったんだー、あたし」
「……」
 カラカラン、ジャッパーッ!
「ふぅ、すっきり。でね、あたし二股かけられてたの」
「……」
 カシャッ、キーッ
「ねえ、今日は天気が良いから公園で食べない?」
先輩はトイレから出てくると明らかな作り笑いをして、鏡に映る私に言った。

(そう言えばいつもより元気がないわ)

「で、どうしたんですか?」
 先輩は髪をかき上げ、鏡にべーっとすると「こうよ!」と言って右手を突きだし た。明らかに、グーだった。充血した瞳がなんだか可哀想だと思った。

 コンビニを出ると先輩と公園へ歩いた。
 陽射しが熱かったけれど微風が心地良い。先輩は袋をぶらぶらと揺らし、遠くの空 を見つめながら歩く。
「ねえ、亜紀ちゃんは彼氏いるの?」
「……いいえ」
「そう。あたし、彼奴をふってやったわ。二度と逢わないってね」
 振り返る先輩の髪が栗色に耀いてとても綺麗だった。

 公園の中を抜けると木陰にベンチがある。丁度いいと思いながらもなんだか変だ。
 先輩はそんな事はお構い無しに、袋からクロワッサンと牛乳を取出しいきなり食べ 始める。正確には喰らっていると言った方が良いかも知れない。
 二人の座ったベンチは大柳の木陰だった。よりによってこのシチュエーション。な んだか先輩がホントに可哀想になってきた。
(いつもの先輩の笑顔は?)
そう思うと無性に笑ってもらいたくなってきた。

 先輩はクロワッサンを食べ終えると牛乳パックを開けてゴクゴクと飲みだした。
(今だ!)
 先輩の顔の前に自分の顔をセット。
 目を閉じながら眉を吊り上げ薄目をセット!
 鼻の下を伸しながら口を半開きにセット!
 鼻の穴を思いっ切り膨らませる。セット完了!
(……先輩、笑って?)
 牛乳を飲む手が止まった。上に向けた顔から目だけで私を見ている。
「グボッ! ぶふぁふぁ〜ッ!」
 私の目の前が白い世界に包まれ、ミルクの匂いが香り立つ。

 先輩はクシャクシャになって笑った。私も嬉しくって笑った。
 私は濡れたスカートの両端を指でつまみながら、がに股で戯けて見せた。
「もー、亜紀ったら!」
 そう言いながら先輩はハンカチで目頭を押さえて……笑った。

 私の股下を微風が通り抜ける。
 柳の枝が揺れて『強がりはおよしなさい』と言っているようだった。

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