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第38回1000字小説バトル Entry8

少女

ある夏の日の夕方、一日の仕事を終え、もうすぐ四十に手がとどく男が重い足取りで家路に向かう。会社を変わって一年。自分のやりたい道を選ぶために会社を変わった。以前より格段に小さい会社。自分より学歴が劣る人間ばかり。仕事も人間関係もうまくいかない。前の会社に残っていた方がよかったのでは? と、もう一人の自分が顔を出す。心を癒してくれる相手もいない寂しい一人男。

今日は朝から雨が降っていた。会社を出た頃は小雨であったが、今はかなり強い雨になっている。明日まで降り続くらしい。じめじめした不快な夕暮れ。いつもの帰り道。時間帯の割には車の通りも少ない静かな道。うつむき加減に歩いているせいであろうか、孤独感がより一層増してくる。「駄目だ、胸を張って前を向いて歩こう」男はゆっくり顔を上げた。

ちょっと先の小さな交差点に少女が一人立っている。上半身は不釣合いな大きな傘に覆われている。脚をまっすぐ伸ばしてじっと立っている。小学校低学年くらいであろうか、後ろ姿からそんな感じがした。

何をしているのだろう。周りには誰もいない。人も車も通らない雨だけが降り注ぐ交
差点。誰かを待っているのであろうか? 少女まであと数メートルまで近づく。する と少女が急に歩き始めた。「なんだ?……ふっ、あんな小さな子にまで嫌われたか」 何もかも悪い方へ頭が働く。少女が自分の存在に気づいているはずもないのに。少女 が立っていた場所に立ち止り、前を歩いていく後ろ姿を見つめる。「あぁ、何もかも が嫌になる……」男は傘を上にかざし雨の降る夕暮れ空を見上げた。

「あっ…」男の目が止まった。青が点滅する信号。「そうか、ただ信号を待っていた だけなのか」いつもの帰り道。人通り、車の交通もほとんどない道。いつもうつむき 加減で歩く道。少女はただ信号を待っていただけ。たったそれだけのこと。男はいつ も信号など気にしていなかった。車も来ないのに信号待ちする意味があるのか? 危 険もないのになんで立ち止まる必要がある? 誰に迷惑がかかる?……いつも自分の 都合ばかり考えていた。周りを見下し、自分勝手な行動ばかりしていた。

「おや?天気が良くなってきたかな?」雨が弱まり辺りが少し明るくなってきた。男 の心の変化がそうさせたのか、そう感じさせたのか……。誰も気にすることのない出 来事。でも、一人の男の心には爽やかな風が流れた。男の顔に心地よい笑顔が浮かん でいた。

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