第39回1000字小説バトル Entry15
私は自殺志願者だ。だから、同類の気持ちは、良く分かる。
クライアントは足で探す。ネット? 伝言? そうしたものには興味がない。ゆきずりのバーで、スナックで、若い子なら喫茶店なりファーストフードで、一人で黄昏ている、同じ眼をした人間を見つけるのだ。
私は三十も半ばのフリーターで、定職にも就かずぼろアパートに住んでいる。実家には勘当されたも同然の境遇で、その日暮らしを続けている。
いつ死んでもいい。
フリーターで食って行けるはずもなく、私には副業がある。預金額はそれなりに大きい。
死にたい人間というのは、どこにでもいるものだ。
万が一のために、クライアントには嘱託の証明を書かせる。だがその前に、じっくりと話を聞く。クライアントの全人生を、語らせ、死んだら泣くであろう家族や友人や知人の心に思いをめぐらせ、そしてなお死を決意させる。ここで、そうした想像力こそが殺人を防ぐ最大の手立てなどという言説に強烈なアンチテーゼを喰らわせる。
その人生を最大限に味わい、家族や友人や恋人らの悲嘆を存分に味わい尽くした上で、殺る。
これが殺人者のモラルだと、私は思う。
名刺を作るなら「本業:フリーター、副業:嘱託殺人業」とでもなろうか。
私はある意味で社会に善として貢献していると思う。
望みを叶えてあげることは、ビジネスの基本だ。
ましてこの欲望渦巻く高度消費社会では。
特急の通過駅。今度のクライアントはセーラー服を着た女学生だ。端のホームに佇み、私を待っている合図の小さな反射板を光らせる。監視カメラの死角。私は音もなく背後から近付き、
突き飛ばす。
騒ぎになって警察の事情聴取などが始まる前に私はその場から離れる。
誰が見ても自殺。
報酬は、クライアントの全財産。今回の仕事で得たそれは少ないが、
私は満足している。
他人の死を味わうエクスタシー。
それだけで、私には最高の報酬となるのだ。
取り乱す家族や友人の魂に思いを馳せ、
天国への扉を開いてやった自分自身を褒め讃える。
その瞬間。
彼女の死を悼む全ての心たちと交感し、私は射精にも似た絶頂感の中で世界のすべてを祝福する。
「愛しているよ」
そして、また、次の仕事を探す。
いつ死んでもいい。
充たされた至福感の中で、私はこの言葉を舌にのぼせてその甘さを噛み締める。
人生とは、素晴らしいものだ。