第39回1000字小説バトル Entry17
一人の男が踏み切りの前で立ち止まって、遮断機があがるのを待っておりました。
男は一日中、いやもうずっと以前から待っているのです。
何故なら列車が通るのは一日に数度しかないというのにその遮断機は決してあがることがなかったからです。
いつしか男の服はほころびが目立つようになり、帽子には蔦が這いツグミが巣を作っておりました。
それでも、男はずっと待っているのです。もうどれくらい前からそうしているのかわからないくらい前から待っているのです。
踏み切りがカンカンカンと音が鳴り、列車の到来を告げます。日に数度繰り返されるお馴染みの光景です。
しかし、今日は違っていたのでした。
列車が踏み切りに差し掛かった刹那、列車の窓から突然白い塊が溢れ出てきたのです。
それは無数の白いハトでした。数えることの出来ないくらい多くのハトが一斉に飛び出してきたのです。
物凄い羽ばたきの音が響きます。
列車が通過、夥しい数のハトが飛び去った後、驚くべきことが起こりました。
錆び付いた遮断機がギギと音をたてゆっくりとあがっていくのです。今までどれほど待ってもあがることのなかった遮断機があがっていくのです。
そして、男はというと特に嬉しがる風もなく、羽毛で埋まった踏み切りをゆっくりと渡っていくのでした。
男が向こう側に行くのを見届けると私は思わずため息を洩らしてしまいました。私の長年の日課はたった今、失われたのです。
途方に暮れてしまった私は取りあえずいつものように珈琲の御代わりを注文しました。
明日からすることは何も思い浮かばないのでした。