第39回1000字小説バトル Entry20
モジリアーニの描いた女のような瓜実顔。
細いくび。
うすくのばした蝋を何層にも重ねたような青白い肌。
軽くウエイヴがかかった漆黒の髪は、豪勢な量で、引力に逆らい無造作に、束ねられている。
きれいに畳まれた二重。
あくまでも黒く深い瞳。
ドラマチックな陰影を作る睫毛。
完璧な濃さとフォルムの眉。
しみじみ鑑賞していたいような美しい人だった。
が。
ひとたび艶子が口を開くと、全員が全員あっけにとられる。
それはそれは大きな前歯が、二本、燦然と輝く金歯なのだ。
歯槽膿漏気味の赤い歯茎に、マッチした金色。
甲高い声で、下世話な話をし、身体を二つ折りして笑う。
開いた胸元からは、鎖骨どころか肋骨まで見える。
その美貌は、三千ピースのジグソーパズルを盛大にひっくり返したような有様になる。
艶子夫人の夫が、明神森で、瀬川の長女とやっちゃった。
なぜここいらのみんなが知っているかと言うと、
瀬川のがまカエルみたいな長女は、折しもなにの日だった。
酔っぱらって、真っ暗闇でやったんだろうな、パンツに御印がくっきり、どっかの国旗みたいな案配に、くっついてしまったんだとさ。
ま、それだけなら、夫婦げんかですむ。
なぜ、みんなが、そこいら一帯の人が一部始終知っているかと言えば、艶子夫人は、その御印の付いた夫のパンツを、夫婦の寝室の天井につり下げてたんだそうだ。
夫を懲らしめたんだろうな。
効果てきめんだった。
そのころのひで坊は、両の頬がこけて、あっち側が透けて見えるような案配だった。
それだけなら、みんなに知れることなかった。
天井からつる下がっているものを発見した、同居の姑が、艶子の悪口と共に、みーんなに喋った。
姑のお千代さんは、一人っ子のひで坊を、可愛がっていた。
ひで坊の窮地を何とか助けようと、思ったに違いない。
母の愛だな。
話は、油紙に火をつけるように、近所に知れ渡った。
追い打ちを掛けるように、私の店でパートをしていた艶子夫人に、学校から電話がかかる。
学校から職場に電話がかかってくるなんて、よっぽどだね。
聞いたら、小学校三年の娘が、友達の服を、はさみで切り刻んだと、言う。
おお!!もしかして艶子さんは、パンツをつるすだけでなく、
夫が着ていた祭りのそろいの浴衣や半てんを、はさみで切ったんではないだろうか?
もっと怖いこと想像したけどやめとこう。
艶子という風情のある名前と、金歯と、天井からつるってある日章旗のようなパンツ。
忘れ得ぬ思い出ですな。