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第39回1000字小説バトル Entry27

義母の黒い下着

 トーマス・F・ホェールズの『義母の黒い下着』という作品は、まことに奇妙な作品である。いわゆる官能小説の方程式とでも言うべきものを、まるで無視しているのである。普通、官能小説というのは、「じらす、じらす、すけべ」あるいは「すけべ、じらす、すけべ」もしくは「すけべ、すけべ、すけべ」といった流れで作品が構成されているのであるが、ホェールズの場合、「すけべ、じらす、じらす」という具合に構成されているのである。言ってみれば本番を終えた後に前戯をしているのである。
 書き出しはこうである。(日本語版が出ていないので私訳になるが、まあ誰が訳しても似たようなものであろう)

 「あん、あん」とナンシー。
 「うっぷす、うっぷす」とボブ。
  ナンシーは果てた。ボブも果てた。(『義母の黒い下着』私訳)

 まったく官能もへったくれもあったものではない。官能場面は作品を通じてこれで終わりである。まったくホェールズのやる気が感じられない。そして何を勘違いしたのか、所々にわけの分からない詩が挿入されているのである。
  
 「自分探し」
  私は鳥になりたい
  風にもなりたい
  本当は宇宙飛行士になりたかった
  でも
  君は目が悪いから無理だよ
  って、先生に言われた
  ああ、リアリズム(私訳)

 そして『義母の黒い下着』は以下のように締めくくられている。

  いまは自分には、幸福も不幸もありません。
  ただ、一さいは過ぎて行きます。(私訳)

 あきらかにパクリである。太宰の『人間失格』のパクリである。お前が人間失格である。
 驚くべきことにホェールズは、巻末において自身で作品解説を加えている。
 
  私は官能小説なんて書きたくない。クソッタレ!
  私には書きたいことが山ほどある。しかし金が必要なのだ。
  クソッタレ!

 ホェールズは1978年に死んだ。彼は生涯を通じて自身の望む作品を残すことができなかった。しかし彼が芸術と実生活との間で苦悩したことを考えるとき、彼こそ真の芸術家であったというべきであろう。

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