第39回1000字小説バトル Entry28
━━━今日は、手作りのゼリーを渡せた。
気に入ってくれるかしら?━━━
「何か飲む?」
頭が痛くなるほど冷やしたリビングの隅にある椅子に腰をかけながら、修平に話し掛けた。
テカテカ光るサイドボード。スカイブルーの、たっぷりとドレープをとったカーテン。
窓越しに見える、季節を感じさせる熱そうなコンクリートの道路。
昨日と何ら変わっていない。
だから、修平が座っているあたりが白く光っている様に見えるのも錯覚だろう。
「カルアミルク」
「馬鹿ね。そんなもの何で私の家にあるのよ。」
「確信犯とは俺の為にある言葉。」
ククク、と八重歯を見せながら修平が笑った。
いっつもこんな感じだ。そーやって私の事を小馬鹿にする。
・・・それが嬉しいと感じるのはいつ頃からだろう?
ふ、と疑問が頭をよぎった。
考えてみれば謎だ。いつからなのだろう。前からよくしゃべりはしていたのだが・・・。
『恋は唐突に』なんてフレーズを耳にしたことがある。
このフレーズの本当の意味は
「恋というのはきかっけもないのにいきなり人を好きになったりする」
何て事ではなく
「恋なんていつからしたのか分からないから、唐突に思える」
って事なんじゃないのかしら。
まぁ、どうでもいいと言ってしまえばどうでもいい事だが。
「おい〜。なんか食い物ない?冷たくてみずみずしくて美味しいの。」
修平の声でふっと我に返った。
どうも私には思考癖があるようである。よく現実から離れ、思考の世界にどっぷり浸かってしまう。
「グレープフルーツがあるわ。食べる?」
グレープフルーツ、という言葉を私は特別丁寧に発音した。
「あぁ、それでいいよ。お願いします。」
確信犯って言葉は、本当は私の為にある言葉。
冷蔵庫の中には、グレープフルーツのゼリー。
これを修平にあげたら、きっと修平は家で食べてくれるだろう。
アーモンドの匂いに彼は気付いてくれるかしら。
インターネットの通販で手に入れた、カプセル3つ分の青酸カリ。
そしてこれを食べた修平は、毒林檎を食べたお姫様のように倒れるの。
永遠に私の物になる為に。
目を閉じた彼の頬はきっと青白く、美しいのだろう。
薄いアーモンドの香りは、幸せな夢を終わらせないのにちょうどいい役目を果たしてくれるに違いない。
「あ、そういえば私、グレープフルーツでゼリーを作っておいたの。
それはその残り。良かったらゼリー、もらってくれない?味見して欲しいの。」
真夏の下の狂気。