第39回1000字小説バトル Entry3
「あっ」
その花に棘があるのを私は知らなかった。
私は声をあげ、手を引いた。
「どうした?」
ウェスはこちらを向いた。
「何でも無いです」
私は手を後ろに回し、答えた。
彼は私に歩み寄り、私の手を優しく掴んで、上げさせた。
指先に血が滲んでいた。
「この花は小さい。だから棘など無く見えるが、実際は敵に対して敏感に隠した棘を抜く。シスター、知らずに触ってしまったね」
私は頷いた。
「詳しいのですね」
「花は好きだ」
彼は私の指先に服を千切って造った即席の包帯を巻き始めた。
「咲き、散り、また咲く。懸命な感じが良い。それに綺麗だしね」
「そうですね」
「よし、これで大丈夫。痛くはない?」
「ええ。有り難うございます」
私は礼を述べ、手を引いた。
彼はそれに笑顔で応え、そして座り込んだ。
私も彼の隣りに腰を降ろす。
天気の良い日だった。高い空からの風が、花々の中をどこまでも吹き過ぎていく。
「やはり考えを改める事は出来ませんか?」
包帯を確かめながら私は言った。
「今からでも遅くは無いのです。自らの罪を認めて懺悔すれば」
「私は私の想いに殉じただけだ」
彼の声は穏やかだった。
「何も後悔することは無い。最後の願いに花園にも連れて来て貰ったしね。思い残すことは無いよ。シスター、有り難う」
「本当にそれで宜しいの?」
「ああ」
「神は慈悲深いお方です。今からでも遅くは」
「シスター」
「はい」
「神、ってなんだい?」
彼は私を見つめ、言った。
私は答えようとした。答える間は無かった。
彼は、私の顎に手を掛けた。
そして私に、ゆっくりと唇を重ねた。
包帯に包まれた指先が、小さく疼いた。
「これより火刑を執り行う。罪人を火刑台へ」
神官が宣言し彼が台へ上げられると、人々は歓声を上げた。
台に火が点けられ、燃えさかる炎が彼を包んだ。
人々の熱狂は火勢と共に高まっていく。その中で私は、火に包まれた彼の体から何か透明なものが抜けていくのを見た。
私達の頭上でそれはゆっくりと固まり、やがて、彼になった。白い羽根を持つ、彼になった。
彼は私達を見渡した。そして私を見分け、微笑むと、彼は空へ羽ばたいていった。
「どうしました?」
誰かが私に、心配そうに尋ねた。
「何でもありません」
私は答えた。
熱狂はますます高まっていく。
その中で空だけはどこまでも青く、だから私には彼が何処へ行ってしまったのか、どんなに目を凝らしても解らなかった。