Entry1
長編小説(途中まで)
おんど
梶原さんが勤める市立図書館の特別整理期間で大幅な図書の入れ替えが行われ、特に閉架書庫に収められていた雑誌類が大量に処分されてしまったという話を国道沿いのラヴホテルのベッドで聞いた。処分が決まった雑誌は図書館の蔵書印などをサンドペーパーで丁寧に消し、ネット古書店に横流しすることにより臨時収入を得ることができるため、日頃からワンオペレーションで9時〜21時の業務を回している梶原さんにとってはストレス解消にもなるし廃棄リストと廃棄資料を照合する文化政策課の職員のみるみる曇っていく表情をスマホで隠し撮りしてSNSで炎上させてささやかな心のぬくもりを得ることもオプションとしてあるのだから特別整理期間の梶原さんはご機嫌である。
いつものようにゆっくり回転するベッドの上で突き出された白くて広大な梶原さんの尻を指でなぞりびくんと動いた瞬間を逃さず「まひるまの」と指を動かす。梶原さんのただれた肛門がきゅっと締まるのを見逃さず「雪のにおいは遠い」と続ける。ぴったり閉じていた大陰唇が開いて愛液の仄かな香りが漂い「シャワー室のタイル」となぞる。枕に顔を埋めていた梶原さんが日頃のワンオペレーション業務で凝り固まった首の可動域を最大限ひろげてこちらを振り返る。
「それって千種創一の『まだ雪の匂いはとおい。まひるまのシャワー室にはタイルが剥がれ』なんじゃないの。小賢しい」と鼻で笑った。
二句切れの句点が「とおい」の余韻を残しているつもりなんだろうけど、現代口語短歌風の「やってる感」が鼻につくと梶原さんは乾いた声で言うのだった。国道沿いのラヴホテルの浴室のタイルは所々剥げかかってカビで黒ずんでいる。ゆっくり湯船で温まると勃ちが悪くなるからシャワーで済ませてしまうのだが、本日は11月15日、いやらしい意味ではなく乳首が立ってしまうほど肌寒いのだった。
「あの三十一音量感の底をながれてゐる濡れた湿つぽいでれでれした詠嘆調、さういふ閉塞された韻律に対するあたらしい世代の感性的な抵抗がなぜもっと紙背に徹して感じられないか」と小野十三郎が「八雲」1948年1月号で述べた「奴隷の韻律」そのものではないかと梶原さんは憤る。憤るほどに濡れていくのは仕方のないことで、そこを泥濘化していく私の務めもまたでれでれした奴隷の韻律であると指弾されたようで萎みかかっていたものが矢庭に勃ちやがる。今回の特別整理期間で閉架書庫の「八雲」はすべて廃棄さ