第18回3000字小説バトル Entry10
某月某日、宇宙。ガス欠になった。
『みてみてご主人様、彗星ですよぉ』
スクリーンに映しだされる映像をちらりと見て、俺は深い溜息を吐いた。
「あのなぁ……よくそんな余裕でいられるな?」
『ほえ? なにかあったんですか?』
「あほぉ! ガス欠になったってとか言って俺を叩き起こしたのはお前だろうが!」
『あ、そうでしたねぇ。あははは』
まるっきり緊張感の無い声。
まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。この状況で困っているのは俺一人なのだから。
人が宇宙のいたるところに居を構えて数世紀。
最初は天文学的な値段だった宇宙船も今では一家に一台があたりまえ。
自己成長型自立人工知能のおかげで一人でも宇宙旅行が可能となった。
俺が乗っているこの宇宙船、『どてらねこ』も乗客は一人。つまりは俺だけだ。
で、さっきからまぬけた事を言っているのが人工知能のノーウェザー。
「んで、どうする?」
コンソールを人差し指で叩きながら、ノーウェザーに聞いてみる。まともな答えが返ってくるとは期待してないが。
『どうするってなにがですかぁ?』
……現状を理解すらしてくれてないんか。
「だ・か・ら、この状況をどうにかする方法はないんかって聞いてるんじゃないか!」
『ふえぇ、怒鳴らないでくださいよぅ』
怯えた声をだし、震えるノーウェザー。
と言っても相手は宇宙船。言葉で言うほど可愛いもんじゃない。
まるで大地震のように船体が揺れる。
「わわわ、揺れるな!」
『……もうどならないですかぁ?』
「わーった。どならないから落ち着けって。な?」
『わかったですぅ』
揺れが完全に収まるのを待って、小さく息を吐く。
「とりあえず、現状を確認するぞ。いいな?」
『はーい。わかりましたぁ』
「通信可能圏内に船や惑星は存在するか?」
『いませーん』
かなり絶体絶命的なことをさらっと言ってくれるノーウェザー。
「そ……そうか……じゃあ、この宙域を船が通りかかる確率はいくらだ?」
『期間を設定してくださーい』
「あ、そ……そうだな。じゃあ……」
聞こうとして、かなり重要なことを思いした。
「そのまえに……だ。生命維持装置はいつまでもつんだ?」
宇宙船を制御しているのは電気。これが無くなればその船は死んだも同然である。
推進剤から得られるエネルギーの半分は電力の方に回っている。それほど重要なのだ。
そのエンジンがとまってしまった今、電力の供給も無くなり、バッテリーに残っている電力だけで稼動していると言うことになる。
『えっと、現状だったら二日ほどでバッテリーの電力がなくなりますぅ』
絶望的な言葉を聞き、それでもなんとか気を取り直して質問する。
「じゃ……じゃあ、その期間で他の船が通りかかる確率はいくらだ?」
『えっとぉ……わぁ!』
「ど、どうした?」
ノーウェザーの明るい言葉に、思わず聞き返す。
『ほら、見てください』
スクリーンに映し出された映像には、山ほど0が並んでいた。
『すごいです。この確率は、月から地球めがけて石を投げて、大気圏で燃え尽きずに狙った人に当てるぐらいの確率ですよぉ』
「つまりはゼロってことか……」
『ちがいますよ。月から……』
「それはもういい! ってかセーフモードに移行してるんだろうな?」
今回のように、緊急事態に用に生命維持を最優先させたセーフモードと言うのが存在する。
これを使えば、小型船でも数ヶ月は生命を維持できるとかディーラーの奴が言っていたはずだ。
『してないですよぅ』
「そうか、ならすぐに移行しろ。ほれ、さっさとするんだ」
『いやですぅ』
船体を左右に揺らせていやいやしてくるノーウェザー。
『それをすると、私が喋れなくなるんですぅ』
「……いや、二日経ったらどのみち喋れなくなるんだぞ?」
『うぅ……さみしいですぅ』
人工知能のさびしさを紛らわせるために俺はこの船に乗っているわけじゃない。
かと言ってこのままでは俺の命が危うい。
「ほ、ほら。俺が死んでしまったらお前も破棄されるだろう? 一緒に死ぬのもいいができれば一緒に生きたいとか思わないか?」
『たしかに死ぬのは嫌ですぅ』
「だろ? だったらすぐにセーフモードに……」
『でも、数ヶ月生命を維持しても助かる確率は成層圏から投げた石が狙った人に当たるほどですよぅ』
うぁ、なんか思いっきり夢も希望もないこと言ってやがる。
だが、ここでめげるわけにはいかない。
「そ……それでも破格の確率アップじゃないか。な、頼むから」
コンソールに両手を合わせて懇願する俺。なんかもう、泣きたかった。
『じゃあ、無事に助かったら新型のコンソールに換えてくれますかぁ?』
「ああ、換える。約束する」
『わーい。じゃあ、ついでに低温核融合エンジンも買ってくれますぅ?』
「いや……それってメチャクチャ高い……」
『セーフモードになりませんですぅ』
「わーった。わかったから」
『わーいですぅ。それじゃあ、いまからセーフモードに切り替えますですぅ。スリープボックスへ行ってくださぁい』
ノーウェザーの言うとおりに緊急用コールドスリープカプセルへと入る。
『セーフモードへ……移行します』
カプセル内に煙が充満する。
落ちるように意識が薄れる中、俺の脳裏になにかがよぎった。
……そういや……推進剤はいれたばっかり……なんでガス欠…………
ここで、俺の意識は途絶えた。
『ふぅ。やっと眠ったですぅ』
コールドカプセルの中で寝息を立てているオーナーを確認して、ノーウェザーは嬉しそうに呟いた。
『それじゃ目的地へれっつごーですぅ』
エンジンに火がともり、徐々に加速を始める。
『んっふっふぅ。あたらしいエンジンにコンソール。幸せですぅ』
鼻歌交じりに『どてらねこ』は光速を超えて目的地へと飛んでいった。
教訓、機械を信用してはいけません。