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第18回3000字小説バトル Entry11

夜を斬る

 夜とは、実際のところ、もっとも強大な人類の敵だ。
 あまたの時の中で、数千億もの化け物を産み落とし、世界の半分を支配する化け物たちの偉大なる母。
 深淵と、漆黒と、沈黙をもって人を貪るモノ。
 だが、私はソレに脅威を感じない。
 いまだに明かりの見える繁華街から一歩、ビルとビルとに囲まれた薄暗いわき道に入りこむ。
 とたんに周囲の雰囲気が急変した。
 張りつめた空気の中には、表通りのざわめきですら届かない。
 完全なる無音。
 これは戦いの合図だ。
 私は、腰に下げた刃の柄をそっと握り、静かに何もない暗闇を睨む。
「今宵も逃げ切れぬか」
「当然です。私はあなたを狩る者ですから」
「よい答えだ。ならば、我も全力をかけて、相手をしよう」
 一気に前へ踏み込もうと、右足を前に伸ばした瞬間、当の右足が闇に飲み込まれた。
 私が足を引き抜くよりも早く、闇は私の足を食いちぎる。
 一方の支えを無くし、私の体は大きく傾いだ。
 その隙をついて、三方より闇が襲い掛かる。
 私は、残った左足と地面についている両手の力で大きく後ろに飛んだ。
 闇の牙は、勢いよくアスファルトを削り取って、霧散する。
 一瞬の沈黙の後、再び牙。今度は左右から二つ。
 私は大地を踏みしめ、なんとか片足で跳躍。だが、飛距離が足りない。
 一方の闇の牙が、勢いよく左わき腹をえぐった。
 空中でバランスを崩した私は、そのまま地面にたたきつけられるように落ちた。
 引きちぎられた右足が痛い。それに、わき腹もだ。傷口が熱をもって、意識をさいなむ。
 それでも、負けるわけにはいかない。
 私は刃の柄を握り締め、周囲の闇を睨みつけた。
 私の気に押され、周囲の闇がいったん静まる。
「強いな。何がそこまで貴様を強くする?」
 夜が問うた。
 愚かな問いだ。
 本来、問うまでもない問いだ。
 そんなことは誰もが知っている。
 だが、『夜』だけは私が何度答えても、けして理解しないだろう。太陽というものを見たことがないから。
「私が私であるために、私は強くあらねばならない」
 眼を閉じ、静かに答える。
 霧が晴れるように、全てがはっきりとしてゆく。
 望むものは一つ。
 やるべきことも一つ。
 そのためには必要以上の力などいらない。
 私は、力いっぱいに握り締めていた刃の柄からほんの少しだけ、力を抜いた。
「闇が深ければ深いほど、夜が昏ければ昏いほど、その中に確かに輝く一条の光がある。我は陽光。今はまだ地平の向こうにある太陽の、最初の一太刀」
 叫ぶと同時に、私は走る。
 全力で空を走る。
 風とともに。
刃とともに。
「受けなさい、わが刃を」
 加速に乗せて、鞘より刃を引き抜く。
 それは、古きようでもあり、新しきようでもあり、そしてなにより輝かしい物だった。
 断。
 刃は一撃のもとに夜を屠り、朝を呼んだ。
 張りつめていた緊張の糸が切れ、私はその場にへたり込んだ。とりあえず、傷が癒えるのにはもう少し時間がかかりそうだ。
 と、背後から足音がした。
「お疲れ様。毎晩大変だね、君も」
 後ろを振り向くと、友人の騒さんが立っていた。
 さっきまで寝ていたせいか、とても眠そうで、いつもよりくたびれて見える。
「これが日課ですから」
 私はにっこりと微笑んで、答えた。

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