第18回3000字小説バトル Entry15
白鳥座のステーションで、俺はラテ星人の顧客を待っていた。
知っているかもしれないが、学説では、宇宙は級数的に分裂して拡大しているという。蝦蟇の油売りではないが一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚……。壮大なスケールでそんな分裂を繰り返しながら、宇宙は今も大きくなっている。したがって宇宙では、地球と相似形の星が無限に増えていることになる。実際、地球と対称に位置する星が宇宙にいくつもあることがわかっている。
問題はそれら星との距離だった。ラテ星は初期の分裂で地球と同時に生まれたらしく、地球から一番近い距離にあった。とはいうものの白鳥座を対称軸とした等距離にあるため、その存在が知られても、今までの惑星間移動の技術では到達が不可能だった。やっと白鳥座のステーションが出来たことで、初めて地球人とラテ星人の接触は始まっている。
しかし、いかに早くなったとはいえ、白鳥座のステーションまではまる一年もかかる。俺はオマリ星人の酋長の紹介で今回の取引を見つけたが、ラテ星人に関する情報は非常に乏しく、市場もほぼバージンの状態で残されている。俺は今回の商談をとても楽しみにしていた。
「ヨシカワ様、ヨシカワ様、お連れ様がお見えです」
通訳用に左の耳穴に差し込んだイヤホーンが相手の到着を告げた。俺は立ち上がってロビーの入り口を見守った。
驚いた。
似ているだろうと思ってはいたが、ラテ星人は地球人と本当によく似ていた。
しかも、美人だった。
薄化粧にシンプルな髪型。まゆ毛もそのまま。歯並びが綺麗で、俺は目が合うたびにドキドキした。身長は俺くらいか、もう少し高いかもしれない。何よりも嬉しかったのは、大胆にカットされたスペーススーツで、深い胸の谷間と、くびれたウエスト、さらに胎生であることを示すおヘソまで見えた。俺はしばらく息を吸うことさえ忘れて彼女を眺めていた。
「ヨ、ヨシカワジローです」
「ユピと呼んでください」
ユピは背筋の産毛が逆立つようなアルトでそう答えた。
「ち、地球人は、手を握り合って挨拶をするのですがよろしいでしょうか」
「よろこんで」
ユピは差し出した俺の手を力強く握った。
よかった。以前モト星人に挨拶した時、俺の口にキスしたやつらの器官が後で肛門だとわかり、俺は狼狽したものだ。
商談は順調に進んだ。
イツド星人の時は、安すぎるというので値上げしてやったら、同額で同じものを最後に売りつけられた。やつらの言語では売ると買うが同じ単語らしい。ヤマ星人の場合は、買った物の半分を支払い時に現物で返す。いいのだが、なぜ半分だけ買わないのかよくわからない。そうかと思えば、アナタ十個カウ、二個タダという地球のどこかの国を思い出すワンタイ星人もいるし、デジ星人の注文の数がやたら多いので喜んでいたら、ただの二進法だった。
しかし、今回は、宇宙人との商談でよくある思考体系の違いや商習慣の違いが、まったくといってよいほど問題にならなかった。
「私たちにはこれだけの利益が出ますので、あとはヨシカワさんの方でどうぞ」
夢のような商談だった。これなら地球の某低開発国の通商代表なんかより、よっぽど品がいい。俺は思わず消耗品をサービスに一年分も付けてしまった。
ユピは時々じっと俺のことを見つめた。その視線を受けるたびに、俺は思わず目を伏せてしまい、ユピは悪戯っぽく笑った。一度など書類を取ろうとした拍子に、お互いの指と指の先が触れて、赤くなったのは俺の方だった。
ユピの出すフェロモンのせいだろうか、俺はどんどん引き寄せられていくような気がした。俺のホルモンにも異変が起きているのかもしれない。しかし、彼女は商談相手だ。ここは一線を隔さなければならない。そう思った矢先にふと気が付くと、テーブルに置いた俺の手の上に、さりげなくユピの手が重ねられていた。
「よろしかったら、お食事でもいかがですか」
誘ったのはユピの方だった。俺たちはステーションの中にあるレストランに向かった。ユピも俺も炭水化物とたんぱく質でできたカテゴリーAから注文した。飲み物も、酸素と水素の化合物で酸素が一個の物を指定した。こないだは間違ってカテゴリーDを注文してしまい、石ころばかりが出てきた上、酸素を二個に欲張ったら、台所が爆発して気付いたからよかったものの、飲んだら危うく死ぬところだった。ユピはよく食べてよく笑った。テーブルの下でさりげなく手を握りあうというラテ星人の習慣を俺は歓迎した。
流れでステーションのバーに行った。唯一地球人が飲めるチコという酒を俺とユピはしたたか飲んだ。ユピを笑わせると、けっこう強い力で背中をバシバシとどやしつけるのが気になったが、ついでに太腿も撫でられるので悪い気はしなかった。
「どうだい。いい女だろう」
ユピがトイレに行ったので、俺はバーテンダーにいった。バーテンダーは小首を傾げると、奥から雑誌をもって戻ってきた。
「地球人からもらった雑誌だが、オレはこの人がいいと思う」
指差した写真には動物園のコビトカバが写っていた。
「そういや、アンタの方が彼女より美人だ」
「俺のことは褒めなくていい……」
カバのような宇宙人に訊いた俺がバカだった。
「部屋までお送りするわ」
「いや、そんな」
「気にしないで」
廊下を歩くとユピの腕が俺の腰のあたりに回された。
「いけない。あなたを好きになってしまった」
いったのはユピの方だった。ひしと抱き寄せられて、俺はユピの豊かな胸に顔を埋めた。ユピの指が俺のあごを持ち上げると、熱い唇が俺の唇に重なった。
「お邪魔してもいいかしら」
俺は震える手で鍵を開けた。再び熱い接吻。
「で、でも、まだ知り合ったばかりだし……」
いったのは俺の方だった。ユピは微笑みながら俺のシャツのボタンを外す。
「お願い。電気、消して」
これもいったのは俺の方だった。俺は急に自分の乳首に生えた毛が恥ずかしくなって、両手で胸を隠した。明かりが消えるとユピの息遣いが激しくなった。俺はくるりと服を脱がされ、パンツ一枚になった。ユピもいつの間にか裸になっている。ユピの指が俺のパンツにかかった。
「だめ」
抵抗するとあっという間にベットの上に投げ出された。いい忘れたが、俺は96キロの巨漢である。しかし、ここでは重力が違っていた。ユピがすぐに覆い被さってくる。
「いやん。だめ。」
俺が抵抗する。
「大丈夫よ。優しくするから」
ユピがなだめる。パンツが剥ぎ取られた。ぐっと抱き寄せられ、ユピの腕に力が入る。
「いてててててて。痛い。やめろ。やめてくれ」
いったのは俺の方だった。身体を離すと、ユピが灯りをつけた。
「あら、地球人の男にはXXX(翻訳不能)があるの……」
ユピが俺の股間をまじまじと見つめながらいった。見ればユピの股間にも雄々しいXXX(翻訳不能)が屹立していた。
ユピは驚いた顔をしていたが、やがてフフフと笑った。
「わたし、そっちの方もいけるの」
これは地球ではホモなのか、レズなのか、ゲイなのか。それに犯されようとしている俺は何だ? そんなことを考えていたら、あっという間にバックを取られた。
「ジロー、わたしの男になりなさい。悪いようにはしないから……」
シーツを噛み肩を振るわせてイヤイヤをする俺の耳元でユピがそう囁いた。
後で俺は、ラテ星が対称位置から十五度だけ傾いているということを知った。