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第20回3000字小説バトル Entry3

空き領域


空き領域

 
医者は、私の耳の先端をアルコールでふいて、コンピューターからのびている端子をはり付けた。


「気持ちを楽にしてください」

医者はキーを軽やかに押し続ける。

さっき街角で声をかけてくれた看護婦さんは、いつの間にかいなくなった。

ピンク色の看護婦さんの制服みたいなのが、よく似合っていた。

池袋の雑居ビル街を薄ぼんやりと歩いている僕は、突然声を掛けられ、それ

もすっごく可愛い子だったんで度肝を抜かれた。

「顔色が悪いみたいですが、どうかなさいました?」

ぞっとするくらい色っぽかった。

エレベータにのって、小さな部屋に彼女は僕を案内した。

白衣を着た大男が聴診器を首から下げて、鷹揚に僕を手招きした。

いつの間にか看護婦さんはいなくなっていた。

あの看護婦さんは、いつ出てきて、僕を看護してくれるんだろうか。

もう少し辛抱してこのおやじとつきあっていれば良いんだろうな。

「うーーん」

医者はモニターを見たまま首をひねって、考え込んでいる。

「ななんか、ヘんですか?」

医者は、哀れむような目で僕を見て、ため息をついた。

「うーーん、はい、この円グラフをごらんください。

この赤いところがあなたの自己評価です。

つまり自分を良いと思っている値です。

十五パーセントです。平均は三十パーセントだから、かなり平均を下回っています。

これじゃ、身内に次々と不幸が起こる訳です。体調も思わしくないでしょう。」

「そういわれれば、思い当たります。どうしたらいいんですか?」

「大丈夫です。私にお任せ下さい。」

医者は私の顔も見ずに、モニターを見たまま作業を続けている。

うーーんとか、はーとか医者が言うたびに私は不安で一杯になった。

「はい、お待たせしました。百引く十五は・・・」

医者はノートの端で百引く十五の計算をして、八十五と答えをだした。

そんな計算も暗算でできないのか?

「自己評価十五パーセントの残り、八十五パーセントの自己評価空き領域にこれだけの者が巣くっています。」

モニターをスクロールしてみせる。

文字化けにしか見えない画面を延々スクロールしてみせる。

「?」


医者は苦渋の表情で、私につげた。

自己評価欠損空き領域にこれだけ一杯、巣くっているの現象を見たのは初めてです。

「なにがその巣くっているんです。」

「気を確かにお持ち下さい。良いですか、言いますよ。

巣くっている者は、おいなりさんのきつね。関ヶ原の戦いで死んだ雑兵。

尻の穴から空気を入れられてぱんぱんに腹がふくれているカエル。

交通事故で亡くなった浮遊霊が三体。

シマヘビ一匹。

はっきりしたのは、そのくらいで、戻ってくるのも入れるとざっと十二体くらいですね。」

「戻ってくるのって?」

「掛け持ちしていたり、出張していたりするのもいるんです。まめなのがね。」


「巣くっているって、どうゆう事なんですか」

「これは失礼、専門用語です。ちまたでは取り付かれているとか、たたられているとか、乗り移られているとか、憑依されているとか・・・」

「きゃああああーーたすけてください!先生どうか助けてください!」

「だいじょぶですよ。今は治療法があります。」

「まずは自己評価欠損空き領域、面倒なので、以後「ケツリョ」と略させていただきます。

そのケツリョに霊たちがまだ完全に巣くっていない場所が、二十パーセント弱あります。

その領域に、シリコンを注入して、もうそこには霊が入らないようにします。

もちろん、おっぱいデカくするシリコンをいれるんではありません。概念・・・・あ!あららら!」

「どうしました!」

「今説明してる間に、でっかい生き霊が、ケツリョに無理矢理はいちゃました。」

「わーーー!どうしてくれるんですか、先生がちんたら説明なんかしているから・・」

「その生き霊の履歴は、はいこれ。映像でみるをクリックして、はい、これが顔。」

「わーー真理子だ」


「真理子さんはかなりパワーのある生き霊ですよ。彼女は、合コンであなたと出会って遊ばれ、すぐに捨てられて、

恨み骨髄とあります。

やーこれはまずい。真理子さんの背後に中年女性、お母さんでしょうか、生き霊の母子二段重ねという、珍しい現象

です。二段重ねの上に、怒りのオーラが全体を包んでいます。」

「先生、たすけてください!」

「大丈夫。これで巣くられたケツリョが八十五パーセント、自己評価領域十五パーセントでびっちり詰まったんです。

なまじ空きがあるより、治療するには、こちらの方が好都合なんです。」

「もし、ほって置いたらどうなるんですか、僕は。」

「もちろん、殺されますが、簡単には殺してもらえません。生でだらだら殺されるって、感じでしょうか。苦痛を最大限引

き出すってかんじでしょうか。」

「ぎゃーーお願いです、早く直してください。」

「一挙に外科手術って手もあるんですが、あまりおすすめできません。

背骨の上から4番目の直ぐ右奥に、動脈と静脈が交差するちょっと手前にリセットボタンがあるんですが、これはかなり難しい手術なんです。

こないだも一人、ええーいとばかりにやっちゃったはいいけど動脈も切っちゃって、参りました。

ま、ごまかしましたがね。

やっぱり手術は、運勢がいいときしかやりません。

あん時、僕の星座、牡牛座なんですが、最低の運勢だったのに、手術を強行してしまった。

ま、薬や、運動や、食事で直しましょう。


はい、これがお薬。一ヶ月分。薬の名前?「気の持ちよう」です。

これが自己評価をあげるためのトレーニングエキササイズ・プログラム。

これが自己評価回復のための食品宅配サービスの契約書。

これが自己評価再起動のマニュアルの手引き。

あと、これはオプションでわきが治療サポートサービス。

足の裏臭治療サポートサービス。

口臭治療サポートサービス。

あすこの匂い治療サポートサービス。

いろいろ取りそろえてあります。

お支払いはローンで、処理させていただきます。


なお悪霊、浮遊霊、生き霊のあたらしい巣くう先が見つかり次第、治療にかかります。」

「巣くう先って?」

「あんたから出てもらって、そっちに移動してもらうんです。」

「うそー」

「今こんな時代だから、倒産した会社の社長とか、リストラサラリーマンとか大勢応募があるんだけど、何せ需要も多い。おっつかない。

順番待ちで、一年先になるか、二年先になるか、もっとも金額を上乗せさせていただければ、それなりの御便宜をはかりますけどね。へへへ」



「もしかして、これって、悪徳商法?」

「えーー!あんちゃん、もしかして、これって、ひやかし?

なめてもらわれちゃったんでしょうか。おれっちぃ。

こんなに懇切丁寧にあんたの事を思って親身になっていたのに、今更冷やかしでした、はい、さようならはないでしょう。

あんたは一応一人息子だし、親のぼろ家処分すりゃ、五千万くらい払える計算です。

あなたに成り代わって、ローンもくみ終わってんだよ。」
 
「何であんたがそんなこと出来るんだ。」

「さっきあんたの脳の情報をコンピューターに全部コピーしたんだよ!

簡素なできの脳みそでしたよ。ケケケケケ

なーにいちゃんよー。

あっしら、人間の脳みそにセキュリティーかける事が出来るようになるまで、当分これで稼んだよ。」

「悪魔だ」

「何とでもいいな、もう契約はすんでんだ。さっさとけいれ。

もう、くんな!あ、もう一冊これもつけといてやるよ、持っていきな。」

「何ですかこれは、ポッチ教入門書。」



おわりです。皆さんもきおつけましょうね。

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