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第2回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry3

異物混入


 ぎゃあああああ!
「なに? どうしたの、ねえ?」
 突然泣き出した四歳の息子に、母親は驚き箸を落とす。
「琢実?」
「おい!?」
 晩酌の徳利をひっくり返し、父親が息子の両肩を掴んで揺さぶる。
「どうした? なんだ?」
 だが、息子は声を限りに泣きわめくだけだった。
「おいしくなかった? お腹痛いの? 詰まったの?」
 母親は息子の顔を覗き込み――。
「きゃあぁっ!」
 思わず悲鳴を上げた。
「どうした!」
「あなた、琢実が!」
「救急車だ! 早く!」
 息子の口の端を、一滴の血が伝っていた。

「――かかる重大な異物混入に気付いており、またそれが流通途上という回収可能な状態にありながら、被告はこれを黙認したのであります!」
 検事が早口で訴状を読み上げる。
 傍聴席は満席になっていた。
「そしてその異物により、実際に消費者が怪我を負うに至った。これは、単純な不良品の域を越え、むしろ故意による不特定多数を害する行為と考えられます。従って、検察側は決定権を持ち得た取締役に対する傷害罪の適用を求めます!」
 被告は憮然とした表情のまま、両手を前で組んで立っている。
「裁判長」
 弁護士が挙手する。
「発言を認めます」
 裁判官が弁護士を手で指す。
「検察側の主張には、飛躍が見られます。仮に異物が入った食品が存在したとして、それを食べた時に出来た傷が、その異物によるものとは限らないのではないでしょうか?」
 資料を弁護士はめくる。
「現に米国の訴訟では、ゴキブリの入ったピーナッツバターを食べて死んだ子供の訴訟で、子供がピーナッツアレルギーである事が判明し、製造者の責任が問われなかった事例もあります」
「するとなんですか!」
「検察は許可なく発言してはいけない」
「は、はい」
 改めて検事は手を挙げる。
「発言を許可する」
「それこそ論旨のすり替えだ。ゴキブリの例はそうかも知れない。けれど、今回は確実に異物が突き刺さって怪我を負っている。そして同様の事件が多数発生しているのだ。異物と怪我の因果関係は明白だ!」
「アイスの棒が脳に刺さった場合、アイスを棒に付けたメーカーを責めるのですかな?」
 弁護士が皮肉っぽく笑う。
「検察は、我々が論ずるべき大前提を忘れているのではありませんか?」
「大前提?」
 思わず検事が訊き返す。
「そもそも異物と呼べるのでしょうか」
 弁護士は証拠品として上げられている、白い魚の骨を手に取った。
「骨無し魚に残っていた骨は?」


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