【≪ 前】 【▲第2回もくじ】 【次へ ≫】


第2回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry4

リストラクチャ・ゲーム


 会議室に入ると、座席はすでに半分ほど埋まっていた。大切な会議だと言われていたが、居並ぶ男達の顔ぶれを見て、私の神経は凍りついた。
 痴呆の母親のために介護休職を申請した課長。育児休暇から先月復帰したばかりの若い社員。うつ病で時短勤務中の主任。その隣の次長は、女子社員と不倫の噂がある。他の男も、それぞれの理由でわが社の標準的社員の規格から外れた人間だ。
 そして、部屋の一番奥には、人事部の次長と主任が座っている。
 間違いない。これから始まるのはリストラ・サバイバル・バトル。そして私は、リストラ予定者の一人というわけだ。

 世の趨勢に漏れず、わが社も人員削減の必要に迫られていた。しかし一方で、独自のリストラ救済システムを実施していた。リストラ対象者を一同に集めて競わせ、最後に勝利した一人を対象から外す。残された可能性のためにどこまでも非情になれる者を、潜在的能力を持つ逸材とみなすのだ。

 手近な席に座ると、隣の男が話しかけてきた。
「まさか、自分がリストラ・バトルをやる羽目になるとは思わなかったな」
「何のことです」
「とぼけるなよ。キミは何をやったんだ?」
私は無視したが、男は勝手に話し続けた。
「私はね、電車で痴漢と間違われたんだ。疑いはすぐに晴れたが、新聞記事になってしまった」
フーッ、と深いため息をつく。
「この面子を見ろよ。冤罪に病気に親の介護。そんな理由でクビにする会社、こっちから願い下げだと思わないか」
「バトルを放棄させようという気なら、無駄ですよ」
男は眉を上げてこちらを見ると、ニヤリとした。
「なかなか手強いようだね」
 私は肩をすくめた。家には、内縁の妻と幼い息子がいるのだ。いかに狭量な会社だろうと、生活のためにはしがみつかざるを得ない。部屋にいる誰もがそう思っているはずだ。

 二十人ほどの男達が集まり、定刻となった。
 会議室の扉が閉められ、人事次長が私の想像していた通りのこと、つまり、この会合の目的がリストラ・サバイバル・バトルであることを告げた。主任から簡単にルールの説明があり、全員がバトルのために席を立った。この中の一人だけが、社員として生き残ることができるのだ。
 隣の男の顔は、今は冷たく無表情だ。私も同じ顔をしているに違いなかった。
 私はネクタイを緩め、最初の合図を聞き逃すまいと身構えた。

 短い静寂の後、バトル開始を告げる次長の声が響いた。

「だるまさんがころんだ!!!」


【≪ 前】 【▲第2回もくじ】 【次へ ≫】