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第5回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry3
家に帰ると、父さんが泣いていた。 食卓に一人、テレビを見ながら、さめざめと泣いていた。湯呑みの脇に置かれた専用タオルは、既にグショグショだった。「ショウ子、お帰り。遅かったわね。片付かないから、早く食べちゃってね」 台所から、そんな父さんを全く無視した母さんの声がする。自室に鞄と上着を置いて、食卓に着く。席は父さんの向い側。鯖の味噌煮、ご飯と味噌汁。「どうしたの、何があったの」 箸を進めつつ、いけないと思いながらもつい、訊いてしまった。「……ひっく、今朝から……課長が……っく、あんまり……っく、……なんだもんで……わあーん」 涙と洟で汚れた顔でしゃくりあげ、思い余ってまた、大声で泣き出した。これでも会社では敏腕部長らしい。「あああ、ショウ子、だめじゃない。やっと泣き止みかけてたのに……」 私をたしなめつつ、ハイハイハイと肩を叩いて、母さんが父さんをなだめる。暫くそうした後「もう寝ましょうね」と寝室に連れて行く。今夜も父さんは泣き寝入りだ。 皿に残った味噌まみれの梅干を口腔に運ぶ。今週末、トシキさんが挨拶に来るというのに。こんな泣き虫紹介出来ない。その上……。 緑茶をすすっていると、寝巻に着替えた母さんが、蜂蜜入りホットウイスキーのグラスを持って戻って来た。「またあ、心配してんでしょ。彼氏を連れてくること。大丈夫よ。父さんは、泣くだけなんだから。彼氏にしたって、頭ごなしに怒られるよりはずっとマシだと思うわよ」「ねえ、母さん、なんで……」「なんであんなに泣き虫かって、訊きたいんでしょう。まあ、良い機会だから、ショウ子にも話しとくわ。昔はねえ、感情を表に出さない人だったんだけどほら、あの惑星連合との戦闘当時、父さん、特殊部隊として徴兵されて、第三次波動攻撃直後に、スパイ容疑で逮捕されたのよ。そのとき一緒に捕らえられたベス戦闘員の命を救う為、どうしても感情を抑制しなければならず、当時まだ実験段階だった超時空感情移入操作『ベガンデ』を使って自身の将来全ての感情抑制力を費やしてしまったの。おかげで、ベス戦闘員は一命を取り留めたんだけど、父さんは生涯に渡って、感情を抑制する事が出来なくなっちゃって、そんな男らしさに、私も惚れて……」 ホットウイスキーのグラスを空けて、母さんの戯言は続く。私は足元にやって来た飼犬ベスを抱き上げた。 泣き虫父さんとSF母さん……週末が思いやられる。
※作者付記: 超時空感情移入操作『ベガンデ』については、Beganさんのコンセプトをベースに創作いたしました。Beganさん、ご協力ありがとうございました。