第8回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry4
僕が高校一年の秋に転校してきてすぐ、気を使って親切に接してくれた丸坊主の中野くんは、なぜかみんなに「みその」と呼ばれていた。サザエさんの名字のようなイントネーションではなく、横浜の「磯子」のアクセントに近い、平坦な言い方だ。初めて中野くんと一緒に屋上で弁当を食べたときにあだなの由来を尋ねたら、いつの間にかそうなっていたので、よくわからないと言う。
みそのくんのお父さんはテレビ局に勤めているそうだ。いわゆるギョーカイ人だ。その影響だと思うが、みそのくんは時々ヘンな言葉遣いをする。
「けさ電車で隣に立ってたナオンがさあ、オイニーがツイキーでもう、まいっちゃったわけよ」
といった具合だ。冬になるとお世辞にも良い趣味とは言いがたいチンピラみたいなトレーナーを着て登校して来たり、ひどい巻き舌で英語の教科書を情感たっぷりに朗読したり、存在そのものがベタベタと脂っこくて女子にはあまりウケが良くない。ということに気付いた頃には同じ趣味の友達も出来ていたので、何となく少しずつ、みそのくんとの距離は、開き始めていた。
坊主頭の髪が伸び始めた中野くんをなかばからかうように「またパーマかけるの?」と頭の上で人差し指をクルクル回したその友達が放課後、「パーマ事件」のことを教えてくれた。
試験休みが明けた夏休み直前の、確か月曜日だったかな、みそのが巻きのきつい、パンチパーマすれすれのヘアスタイルして登校して来たわけよ。本人はいたく気に入っているらしくて、自慢げに自分の髪型のことを周囲に触れ回っていたんだけどさ(確かに似合っていたらしい)、女子に気持ち悪いだの前の方がまだマシだのさんざん言われたのがショックだったらしくてさ、カバンからムースとブラシを取り出して、背中を丸めて男子トイレへ駆け込んで行ったんだ。
で、中野がさ、一時間目の授業に出てこないでトイレで髪の毛をいじくり倒してたらしいんだけど、トイレから戻ってきたら、ムースの匂い撒き散らしてパンチパーマみたいな頭を無理矢理真ん中分けにしてたんだよ! でさ、その頭がさ、なんかもう脳味噌の模型を被っているみたいでクラス中、大爆笑。その不気味極まり無いヘアスタイルがとにかくすげえ強烈でさ、みんな脳味噌脳味噌って言いながら、のたうつように大笑いしてたらさ、みそのが脳味噌くしゃくしゃしながらこう言ったわけ。
「なあ、ミソノーっつうのはカンベンしてくれよ」
※作者付記:
(言い訳はすまい←すでに言い訳)