第8回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry6
出張帰り。
空港で乗り込んだタクシーの中。
ラジオから中国語でニュースが読み上げられていた。
何故かステレオ。おそらくFMだろう。
「運転手さん。ラジオを切ってくれない?」
少々不機嫌そうに言った。運転手はルームミラーで後部座席にいる私を確認する。運転手はラジオを切ろうとはせず。
「お客さん」
と声をかけた。
「どこから?」
一瞬私は運転手が何を聞いているのかわからなかったが。
「……中国」
めんどくさそうに答えた。
「へー、若いのに、かっこいいねぇ」
かっこいい――という言葉を聞いて、頭にぼんやり出てきたのはオリエンタルラジオだった。コントや漫才、バラエティーを見ていない。中国には六十日間。早送りのように喋る中国人と二度寝したくなるようなNHKの朝ドラしかなかった。子供の頃からテレビっ子だった私にとって、思えば常軌を逸した生活だった。
つーか早くラジオを消してくれ! おっさん!
「しかし、ぉ客さん……。中国って国はなんなんでしょうね。神社一つ参るにでもぐだぐだ言うわ。その割には、平気で人様の家に上がりこんでくるわ」
心の声とは裏腹に、運転手の話は時事ネタに移行する。
「あそこは政治的な実権を持っているのは、一部の貴族階級だけで、国民全体の総意ってわけじゃないですよ。情報統制をして、それをあたかも国民の総意であるかのように見せているだけです」
「へー」
運転手は関心した様子だった。私は窓の外のラーメン屋を見ていた。
「お客さん、何屋さん?」
ラーメン屋とでも答えてやろうと思った。
「自動車の部品を売ってる」
「もうけたでしょ?」
運転手は親指と人差し指の指先をくっつけて円を作る。
その行為がなんとなく癇に障ったのか。私は身を乗り出し、強引にラジオを消そうとした。だが、寸でのところで運転手の毛深い手が、ラジオのスイッチに覆いかぶさった。
「お客さん。私もつい懐かしくなって使っちゃいましたけどね」
どすの利いた声だった。今度は運転手が何を言おうとしているさっぱり読めなかった。私の表情を察したのか、運転手は言った。
「日本語ですよ、日本語。今や中国の占領下になった旧日本で、ご丁寧に日本語で話してくれるラジオなんてどこもありませんよ。どこのど田舎に住んでたかは知りませんがね」
何を言っているんだ?
その時、フロントガラスから見えた電光掲示時計にはこう表示されていた。
2066年7月22日 21:03