第9回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry2
「マーボーカレーを食べてみたいんだけど、どう?」
「……いいんじゃないの?材料あるならやってみれば」
「よし、ならそうしよう」
そう言うと兄は台所の棚をあさり始めた。料理はあまり手伝わない兄が意気揚々と台所に向かうのはちょっと面白い。母はちょうど他の料理を作り終わって皿と鍋を洗っている。おいしいのかどうかは知らないが、期待せずに待ってみよう。私は夕方のニュースにテレビのチャンネルを合わせた。
私の兄は好奇心のカタマリといっても過言ではない。小学校の頃は隣の県の科学博物館に連れて行ってとせがみ、中学に入ればビートルズで英語を学び、高校では美術館に通いつめる。大学生となった今ではSF小説を読んでいるらしい。この間車に乗ったとき、彼のMDにはクラシックの次にヘビメタが入っていて父が驚くということもあった。
そんな兄が『マーボーカレー』という単語を初めて口にしたのは昨日のことであった。とあるゲームに出てくる究極のレシピである。いつものことではあるが、毎度よく変な情報を仕入れてくるものだ。まあ、その妹の私も高校生でダリの絵が好きだという変わり者ではあるが。
ニュースでは最近よくあるバラバラ殺人事件について報道していた。前の事件では「妹になじられたか」という動機だったらしいが、それで人が死んでたら私の命はいくらあっても足りない。
『次のニュースです。××県の養鶏場で鳥インフルエンザが検出された問題で、今日厚生労働省は……』
「一袋三人前って書いてあるわよ、ちょっと多くないかしら?」
「豆腐が入ってなかったら結構少ないと思う。余ったらあとでお父さんに食べてもらうよ」
「それもそうね。片栗粉はこれかしら」
アナウンサーの声が聞こえない。いつの間にか母も調理に参加している。いったいどうなることやら。
十分後、炬燵の上に豚の生姜焼きとブロッコリー、そして『マーボーカレー』が並んだ。
私はいきなり皿いっぱい食べる気は無かったのでお茶碗にかけてもらった。微妙に赤が混じった茶色の物体からインドのスパイスと中華の山椒の芳ばしい香りがする。
『いただきます』
三人で合掌。兄は真っ先にマーボーカレーを口に入れる。そして、
「う……うまい……!」
予想以上においしかったらしく嬉しそうだ。私も試してみよう。
「どう?おいしいだろ」
「……いいんじゃない?」
私の兄は変だ。その尽きない好奇心に苦笑しつつ、私は二口目を食べた。