第10回乱取バトル小説部門

前の作品≪ ↑一覧に戻る  ≫次の作品




02   イン・ザ・スープ
トノモトショウ

 深夜四時に突然セックスがしたくなって、誰彼構わず色んな男に電話を掛けてみるけれど、眠りを妨げてまで私の相手をしようなんて物好きな男は皆無なようで、虚しいコール音ばかりが響いた。なんだかよくわからないけど涙が出そうになって、それをぐっと堪えるのがまた哀しい作業のような気がした。味気無い静寂の中、朝が来るまでのひたすら無為な時間が永遠に続くかのようで、私は何も考えないように心を閉じてみようとしたが、どうしようもない欲望の残滓みたいなものが、カーペットに一粒ずつ落ちていくのを見ていた。

 そんなタイミングで電話が鳴るものだから、相手の名前の表示も確認できなかったし、上擦る声を隠すこともできなかったし、「今すぐ来て」と一方的に告げるだけで精一杯だった。しかし、ぐちゃぐちゃの感情はその一言で完結してしまって、実際にインターホンの音を聞くまでの間にちょっと忘れていさえした。

 男の来訪は面倒なサプライズだったが、そのまま帰すのも無責任な気がして、一発やらせてあげるくらいなら構わないし、そもそもそういうことだったし、とりあえず部屋に上げたのだが、男の名前が思い出せない。見覚えのある顔だったが、この男と寝たことがあるのかどうかさえ疑わしかった。
 男は二言三言、私を心配するような言葉を掛けてくれたが、私はソファの上にだらしなく寝転がり、返事もしなかった。早く抱いてくれ、という意思表示だったのだが、男には伝わらなかったかのようで、もじもじと所在なげに部屋のあちこちを眺め回し、おもむろに冷蔵庫を開けた。「眠れない時や疲れている時は温かいものを飲むと良い」男は独り言のように呟いて、キッチンで何やらテキパキと動く後ろ姿を見ていると、予想外の展開に呆気に取られると共に、肉欲の化身みたいな自分が急激に恥ずかしくなってきた。だが、その妙な居心地の悪さってのは、幸福の前兆みたいな空気感があって、いつの間にかテーブルに置かれたマグカップから漂う湯気と混ざり合って、私を温めてくれていた。細かく刻まれた玉葱と、潰れたトマトがごっそり入ったスープだった。美味しくて、たまらなかった。
 私がスープを啜っている間に、男は可愛い寝息を立てて眠ってしまっていた。結局私は眠れそうになく、男の寝顔をじっと見ていた。空はすっかり白みを帯びた。目が覚めたら名前を聞いてみよう。そしたらまた新しい私の一日が始まっていくのだろうか。