第10回乱取バトル小説部門

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03  
植木

前菜:最初に口にした料理は母乳らしいが、残念ながら私にはその記憶がない。退行催眠では味まではよみがえらないのだ。人生の断片を金で取り戻そうとしても必ずしも上手くいく訳ではない。むしろ想像によって有り余るほどの空白を埋め尽くしてしまう事のほうがはるかに有意義ではなかろうか。午後二時。私は雑居ビルを出て人混みの一員になった。

第一の皿:童貞を失ったのは九歳の時だった。無論その時は自分がなにをしているかその意味を知りはしなかった。相手は十二歳。孤児院で大勢いた姉の一人だった。今から思えば勃起したのが不思議だが、その瞬間は姉に対して一匹の雄であったことに間違いはない。脚を腰に巻きつけ私が逃げられないようにした姉は、私の耳元で小さく喘いだ。なにか恐ろしい事に巻き込まれていると私は感じたが、そのような事は口に出せずにいた。私は自分の内側から沸き起こる恐怖を抑え込もうと姉の硬くなった乳首を口に含み吸ったのだった。そんなことがしばしば繰り返されたある日、姉は里子に出されることになった。私には悲しみという感情はなく、むしろ開放される喜びを知った。今はもう姉の名前は覚えていない。

第二の皿:季節外れの陽気で狂い咲きの桜が舞うなか、私は中学を卒業した。翌日から料理人となるため住み込み修行が始まった。兄弟子たちは残念なことに馬鹿ばかりだった。ある意味では刃物など持たせてはいけない人種にすら思えた。また、年功序列の世界では私に一切の発言権などはなかった。母屋には親方の一人娘がいて、皆にお嬢さんと呼ばれていた。そいつは若鮎のような芳香を放ち涙腺を自在に操りながら男たちを翻弄していた。年頃の少年たちは娘を釣り上げようと必死だったが、いつも上手に餌だけを食み、するりと身をかわすのだった。兄弟子たちは口々にあの脚に唇を這わせたいだの一発やりたいだのと、新鮮な鮑のぬめった表面を指先で擦りながら下卑た笑いを振り撒いていた。そんなとき私は一人になれる便所の個室で兄弟子たちよりももっと陰惨な方法で娘を嬲っていて妄想が頂点に達した時、釣り上げられた魚の様に全身をびくつかせ白濁した体液を放出したものだった。

ドルチェ:人生最後の食事に何を選択するか。様々な献立が考えられるだろうが、私は自分の手首を切り裂き溢れ出た血、その真っ赤な鮮血をもって最後の晩餐としたい。私自身が最高の食材として存在する、そんな趣向はどうだろう。