zippoh
南方の真珠と呼ばれる栗色の乾燥地帯。大道芸人が様々な芸をくりひろげる死人の集会場。旅の途中だったはずなのに、すでに一ヶ月近くの長逗留だ。私は今、神の国にいる。
大手メーカーの受付嬢に飽きたから、ただそれだけの思いつきで一人旅に出た。女の一人旅は危険だと周囲に諭されたが、それがむしろ私の背を押した。何かを求めたり探しているのではない。居場所を変えてみたかっただけなのだ。
一ヶ月前、私は城壁に囲まれた旧市街で、数人の少年たちに人気のない片隅につれこまれた。もはやという寸前、背の高い若者が現れ、少年たちを追い払った。まるで陳腐なドラマの演出だ。乱れた衣服をなおしながら思った。
それがやはり事実だと、事件から数日後に若者がベッドの中で告白した。街のガイドをうけたり、お茶や食事をともにするうち、私たちは抱きあうようになった。それは一人旅の孤独な心を癒すためではない。肌がほかの肌を求めたからだ。それはボディケアのようなものだ。その程度のはずだ。もちろん、それからは金の無心が頻繁にあり、はじめからわかっていたことだから、ほどほどに与えている。エステに通うよりは少ない額なのだからと。
死人の集会場を目的もなく徘徊する夢遊病患者。一人、ベッドの中で、褐色の肌を求めて悪寒を走らせる熱く疼く肉体。若者は、つぎの獲物を狙ってか、近ごろつれない素振りをする。私は自分のまさかの思い違いに唇を噛む。若者の褐色の肌は、エステに通うボディケア、その程度だったはずなのに……触れるだけでは満たされなくなった私の肌は、若者の肌と溶けあうことを願っている。一人旅の気まぐれだったはずなのに……。
私は、小さな出店で錯綜した市場の狭い路地を、人をかきわけて奥へ奥へと歩く。布地や硝子や陶器や宝石の無数の色彩と輝きが左右に流れていく。
袋小路の店につきあたる。店主に紙切れを手渡して品物をうけとる。
その夜、私は手料理をつくって若者にすすめた。そして、これをかけて食べるといいわよと、若者に小瓶を手渡す。若者はいぶかしがることもなく、それをスープや炒め物にかけ、旺盛に食べる。
干涸びた得体の知れないなものが隈なくぶらさがる店の中で、年老いた店主が一枚の紙切れを読みなおして微笑んだ。
――結婚したがらない相手に飲ませる薬がほしい。
そして、つぶやいた。「それはサソリの粉だよ。効果てきめんさ」と。
私は今、神の国にいる。