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第14回詩人バトル Entry35

花束を買いに

 記念日です。
私は華を買いました。花屋で華を買いました。

 紅い薔薇の小さなブーケを注文していたのにも関わらず、店員さんはやや大きめの花束にしてくれました。
「リボンは何色にされますか?」
素早い手さばきで長い茎を折り、華やかな包装紙で包んでいくその手は
痛いほどに皮膚が剥け、指先は紅くなり、爪と皮膚の間は厚くなっています。
「白色を。」
丈夫で大きな銀色の鋏でしゃくしゃくキリトリ飾り付けていきます。


 値段は張りますが、
「記念日ですから。」
「そうなんですか。喜ばれるでしょうね。
 結婚式とかですか?」
「はぁ。」
会計を済ませ、
その大振りのブーケを両手に
芳しい赤がめくれていく美しさに
一時見とれて
「ありがとうございます。」
花屋を後にしました。




 2人はなかなか会えない日々を過ごし唯一の記念日に花束を送りあうのです。
不思議な人なのです。男性なのに華が凄く好きで、知識が通じていて。
 何度か行き来する部屋にも
観葉植物、花株が。
「アパートはベランダ付きじゃないと嫌だなぁ。」
 花びらが少し、しおれてきたような気がします。
冷たい乾いた風になぞらえて、私の歩みとは反比例に

花束は
次第に気力を失っていくようです。




 灰色の部屋にこもりっきりの貴方に会いに来ました。
貴方は今日も変わらずに、そこに座って微笑んで
 手向けられた花々の手入れに余念がないんでしょう。

「嗚呼。     貴方。」
今日は記念日。
荒れた部屋を指でなぞれば、貴方の顔が苦痛に歪む。
「貴方。」
胸ポケットから取り出した汚れた銀色の指輪を、貴方の目の前に置くわ。
「貴方。」
悲しい出来事は突然に。
貴方との別れは突然に。
痛いほど傷付けられて、貴方もきっと傷ついてる。
頬を伝う泪が薔薇をも泣かしてしまうでしょう。
「わ   わ  わたしね?」
立つことすらままならなくなりうずくまる。
 もう、左指には異なる愛のカタチがあり
私はその事実から免れたい一心で、その全てから変わりたい一心で



「結婚するの。」
 手向けた花は紅い薔薇。
私の情熱は、永遠に貴方の傍で。
 灰色に映える紅い薔薇。
最後まで、その長い指で大切にして頂戴。


「頑張ろうね。」
そのひとことが、また滴を招いてく。
あの部屋の 花達と同じにブーケは再び潤いを取り戻したのでしょうか。

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