第16回詩人バトル Entry24
「復旧の見込みはありません」
駅のアナウンスは乾いた口調で告げる
駅員も疲れているのだろう
改札の方からは
酔った怒号が絶え間ない
こんな時に、
否
こんな時だから、だろう
寒いのか暖かいのかわからない
桜舞い散る夜のホームで
ベンチのひとつ席を離して座って
何も語らないぼくたちは
身動きさえできずにいる
ぼくがやっときりだした
別れの決意を知った
きみは部屋を飛び出して
下りの列車に飛び乗って
降ろされた場所は
もうすぐ海が見えそうな
闇の綺麗な田舎町
そして列車は動けず
車両のすみにいた
きみを見つけて
きみもぼくを見つけて
でももう
ふたり
なにも交わす言葉がなくて
「復旧の見込みはありません」
なんてアナウンスが流れて
きみは少し嗤って
ぼくも少し笑ったら
きみはすぐに
険しい表情に戻ってしまって
この駅に列車が立ち往生して
もうどれくらいの時が経っただろう
深夜も間近な列車の客らは
代行輸送のバスで片づけられていく
駅員は乾いたまま
申し訳なさそうに
ホームに残る
ぼくたちに
告げに来た
「復旧の見込みはありません」
それが何の事なのか
ふたり痺れてしまって
よくわからなくて
でも
駅員の乾いた口調は
代行輸送のバスが
もう終わりになるから
早く乗ってくださいと言う
けど
きみはじっと
動かない
きみはちいさく
ちいさく呟いた
「代わりなんて要らない」、と
時が押し詰まって
駅員は肩を落とし
諦め、去って
ぼくたちはホームに残り
ひとつ席を離していたけど
それでも春は寒いから
ぼくは
きみに寄り添った
少しばかり
静かな時がすぎ
闇の星がわずかに傾いて
乾いた駅員が
毛布を一枚持ってきた
「復旧の見込みは…」
ぼくの肩にもたれ
寝息をたてた
きみを見つけて
駅員は口を噤(つぐ)んだ
彼とぼくは目を見合わせて
何か通じた笑いを
声を出さずに上げた
駅員はそっと
ぼくたちに毛布を掛け
靴音も立てずにしずかに去り
ぼくは闇を
ちいさなぬくもりとともに
味わいながら
思い出と一緒に
5つめの流れ星を数えたあと
なんだか
決めてしまったことなど
どうでもよくなって
うとうとと眠り込んだ
乾いていた駅員が
ぼくを揺りおこした
「まもなく、上り列車が参ります」
空は群青に染まり
彼もすっかり落ち着いて
乾きは癒えたみたいだったけど
隣にいるはずの
きみは姿を消していて
「先に出た、下りの列車で…」
と申し訳なさそうに言うと、
「上りがきたら、あなたをおこしてあげてください、と…」
と付け加えて
彼は線路のむこうへ目をやった
ぬくもりが去って
肩が冷えきっている
ぼくはなんだか
重い気怠さを
むりやり噛みつぶしてみた
毛布と
とびだしたきみの
残り香を一緒にたたみ
彼に手渡す
駅員は上り列車を迎え
ぼくを敬礼で見送っている
少し、なんだか
申し訳なさそうに
始発の上りは
人もまばらで
向かい合わせになっている
空いた席に座り
窓から外を見た
列車が遠くの
海が見える場所に
さしかかった時
空は群青から
水色へとさしかかり
重そうな貨物列車を
スローモーションのように
ゆっくりと追い抜いた
ひとつひとつの貨車に
歴史があって
ぼくはそこに
思い出を重ねて
みたりしていると
朝日が景色の
角をつけて
列車のスピードみたいに
どんどん昇っていく
きみは
下り列車の中で
おなじ景色を見たり
おなじ気持ちを
感じて
いるのだろうか
復旧した列車で
復旧できない距離が伸びていく
背中に
ふと、
きみの気配がしたような気がして
振り向いてみた
でも
そこには
空席だけが
醒めた空気をのせていて
黙々と列車は
復旧した線路を
眈々と
走り続けた