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ここは 冷たい鉄と温かい木で出来ている 錆びた色と匂いに背中を押される そんな私を見ているのは数羽の鳥達だけ あぁ、またあの人だ。 理奈は、向かい側のホームにいるサラリーマンらしき人をじっと見た。 顔ははっきりとは見えないが、背格好から、いつも見るあの人だと判断した。 --------------あの人。 見るのは、いつも朝の駅。理奈が学校に行く為に駅にいる時間だ。朝の通勤通学時間なのだから、同じような時間にいつも見る人がいてもおかしくはない。けど、彼は特別だった。 8時15分/今日も定刻通りに反対側のホームに電車が来た。 理奈はそれを、ボーっと立ちながら見つめた。 ゴゴーッという叫び声とともに電車は走り去っていく。途端に目の前が開ける。 二本の線路を挟んだ向こう側の世界には、看板とゴミ箱とベンチ、そして彼。 やっぱり今日もだ。 あの人、サラリーマンらしき人、彼。 そして、いつも電車を数本見送る人。 ただいつも同じ時間にいる人、ではない。特別だ。同じ人間。 そう、同じ人間。なぜ彼が電車を見送っているか、理奈が知っているかと言ったら、彼女本人も毎朝のように何本もの電車を見送っているからだ。 いつも遅刻ギリギリだと言われる電車に間に合うように駅に着く。まずそれを見送る。 そして、そのまま日によって数は違うが、最低でも3本は見送る。 いつからこんな事はじめたのか、本人も覚えていない。 ただ自分がそうしたいだけだ。 2分経って、理奈の立っている側のホームにも定刻通りに電車が来た。 大きな硬い冷たい箱が、これまた大きな口を開く。理奈はそれに背を向け、ホームの水色のベンチに座った。 5つ並んでいるうちの一番右端が理奈の特等席だ。 少しの間何人かの人間を吸い込むと、また叫び声とともに電車は走って行った。 視界が開ける、目の前には……………彼。 丁度理奈と真正面、まるで鏡のように反対側のベンチにはあのサラリーマンらしき人が座っていた。 ここからでは顔がよくわからない。 でも、なんとなく見ていないようなふりをしながら見つめ続ける。 今日はもう何本見送ったかなぁ。 理奈はふと制服のポケットから携帯を取り出し時計を見た。 時間的に向こうは5本、こっちは6本。そろそろ、いつもお互いに電車に乗る時間だ。 次の電車は、向こう側と1分差である。 2本同時にホームに並ぶ。 四角い扉が音をたてて開く。 -------------あぁ、今日も結局飲み込まれてしまった。 彼は、1分先に走って行った。 |