●Entry2 枕木 文字数=1000
 深谷 章
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ここは 冷たい鉄と温かい木で出来ている
錆びた色と匂いに背中を押される
そんな私を見ているのは数羽の鳥達だけ


あぁ、またあの人だ。
理奈は、向かい側のホームにいるサラリーマンらしき人をじっと見た。
顔ははっきりとは見えないが、背格好から、いつも見るあの人だと判断した。
--------------あの人。
見るのは、いつも朝の駅。理奈が学校に行く為に駅にいる時間だ。朝の通勤通学時間なのだから、同じような時間にいつも見る人がいてもおかしくはない。けど、彼は特別だった。

8時15分/今日も定刻通りに反対側のホームに電車が来た。
理奈はそれを、ボーっと立ちながら見つめた。
ゴゴーッという叫び声とともに電車は走り去っていく。途端に目の前が開ける。
二本の線路を挟んだ向こう側の世界には、看板とゴミ箱とベンチ、そして彼。
やっぱり今日もだ。
あの人、サラリーマンらしき人、彼。
そして、いつも電車を数本見送る人。
ただいつも同じ時間にいる人、ではない。特別だ。同じ人間。
そう、同じ人間。なぜ彼が電車を見送っているか、理奈が知っているかと言ったら、彼女本人も毎朝のように何本もの電車を見送っているからだ。
いつも遅刻ギリギリだと言われる電車に間に合うように駅に着く。まずそれを見送る。
そして、そのまま日によって数は違うが、最低でも3本は見送る。
いつからこんな事はじめたのか、本人も覚えていない。
ただ自分がそうしたいだけだ。

2分経って、理奈の立っている側のホームにも定刻通りに電車が来た。
大きな硬い冷たい箱が、これまた大きな口を開く。理奈はそれに背を向け、ホームの水色のベンチに座った。
5つ並んでいるうちの一番右端が理奈の特等席だ。
少しの間何人かの人間を吸い込むと、また叫び声とともに電車は走って行った。
視界が開ける、目の前には……………彼。
丁度理奈と真正面、まるで鏡のように反対側のベンチにはあのサラリーマンらしき人が座っていた。
ここからでは顔がよくわからない。
でも、なんとなく見ていないようなふりをしながら見つめ続ける。


今日はもう何本見送ったかなぁ。
理奈はふと制服のポケットから携帯を取り出し時計を見た。
時間的に向こうは5本、こっちは6本。そろそろ、いつもお互いに電車に乗る時間だ。
次の電車は、向こう側と1分差である。
2本同時にホームに並ぶ。
四角い扉が音をたてて開く。

-------------あぁ、今日も結局飲み込まれてしまった。

彼は、1分先に走って行った。


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