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あたしがもっているもの。誰が見てもかわいい、白くて綺麗で細いこの躰と整った顔と、芸術の女神ミューズの名に似せた名前。あたしはあたしでここに在る。 「深渦(みうず)さん、なんかちょうだい」 給食の時間、倉野くんが声をかけてきた。軽々しく深渦なんて呼ばないでほしい。馴れ馴れしい。彼女いるくせに。日本男児も終わりだね、こんなんじゃ。 「じゃあ、ししゃもフライあげる。嫌いだから。」 「ありがとー」 「別にいいよ。嫌いだから」 強く繰り返して『嫌い』を強調する。 「俺のことは?」 できる限りの困惑した表情を見せたら、倉野くんは悪戯っぽく笑い、喜んだ。 「深渦さん、困った顔かわいいし!」 あたしのとなりの席にいた奈々子が、ばーか。と倉野くんに言った。 男はみんな嫌い。いやらしくて、きたなくて、ろくでもない。おとうさんもそうだった。だから母さんと逃げてきた。 放課後、倉田くんは部活に行こうとするあたしを引き止めた。廊下のはしっこから大声で名前を呼んで。もちろん大勢の人が振り向いた。 「深渦さん、鞄かっこいいよね。」 「あんまり中に入んないけどね。」 彼には否定あるのみにしてやろう。寄るな、触るな、こっち向くな。どっかいけ。 「むりやりつっこめばいいじゃん」 また困惑した表情を見せてやる。ああ、やっぱり喜んでる。何なんだよ。このやろう。ばかくそまぬけぶたのけつ。 「…ただそれだけ言う為に引き止めたの」 「もちろん。じゃあね。ばいばーい」 夜、電話をかけた。 「───っていうの。倉田くんってさ、おかしいでしょ。」 「みうちゃんのこと好きなんじゃないの」 「やめてくれぇー」 「でもそうだよ。きっと」 「ばか」 電話の相手は、前の学校で友達だった伽彗(きゃすい)ちゃん。変わった名前だけど、漢字と響きが綺麗。顔と言葉遣いは悪いけど本当は結構いい子。『キャシー』ってあだなでずっといじめられてた。 「その倉田くんとつきあっちゃえば?」 「はあ? 彼女いるんだよ!? しかも変だから嫌いだし」 「そうかそうか」 「なによぉ」 「みうちゃんが男の子の話をしてくるなんてねぇ───好きなんじゃないの?」 「まさか! だって倉田くんてさ」 あたしはその後倉田くんについてずいぶん愚痴ってたと思う。3時間強の長電話。やっぱり好きなのだ。そんな長い時間はなしても飽きない。 倉田くんを誘惑してふたまたかける馬鹿男へ堕落させてしまえ、と伽彗ちゃん。なんて健全なる魂よ……。 |