●Entry5 healthy soul 文字数=992
 左右田紗葵
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あたしがもっているもの。誰が見てもかわいい、白くて綺麗で細いこの躰と整った顔と、芸術の女神ミューズの名に似せた名前。あたしはあたしでここに在る。

「深渦(みうず)さん、なんかちょうだい」
給食の時間、倉野くんが声をかけてきた。軽々しく深渦なんて呼ばないでほしい。馴れ馴れしい。彼女いるくせに。日本男児も終わりだね、こんなんじゃ。
「じゃあ、ししゃもフライあげる。嫌いだから。」
「ありがとー」
「別にいいよ。嫌いだから」
強く繰り返して『嫌い』を強調する。
「俺のことは?」
できる限りの困惑した表情を見せたら、倉野くんは悪戯っぽく笑い、喜んだ。
「深渦さん、困った顔かわいいし!」
あたしのとなりの席にいた奈々子が、ばーか。と倉野くんに言った。

男はみんな嫌い。いやらしくて、きたなくて、ろくでもない。おとうさんもそうだった。だから母さんと逃げてきた。

放課後、倉田くんは部活に行こうとするあたしを引き止めた。廊下のはしっこから大声で名前を呼んで。もちろん大勢の人が振り向いた。
「深渦さん、鞄かっこいいよね。」
「あんまり中に入んないけどね。」
彼には否定あるのみにしてやろう。寄るな、触るな、こっち向くな。どっかいけ。
「むりやりつっこめばいいじゃん」
また困惑した表情を見せてやる。ああ、やっぱり喜んでる。何なんだよ。このやろう。ばかくそまぬけぶたのけつ。
「…ただそれだけ言う為に引き止めたの」
「もちろん。じゃあね。ばいばーい」

夜、電話をかけた。
「───っていうの。倉田くんってさ、おかしいでしょ。」
「みうちゃんのこと好きなんじゃないの」
「やめてくれぇー」
「でもそうだよ。きっと」
「ばか」
電話の相手は、前の学校で友達だった伽彗(きゃすい)ちゃん。変わった名前だけど、漢字と響きが綺麗。顔と言葉遣いは悪いけど本当は結構いい子。『キャシー』ってあだなでずっといじめられてた。
「その倉田くんとつきあっちゃえば?」
「はあ? 彼女いるんだよ!? しかも変だから嫌いだし」
「そうかそうか」
「なによぉ」
「みうちゃんが男の子の話をしてくるなんてねぇ───好きなんじゃないの?」
「まさか! だって倉田くんてさ」

あたしはその後倉田くんについてずいぶん愚痴ってたと思う。3時間強の長電話。やっぱり好きなのだ。そんな長い時間はなしても飽きない。
倉田くんを誘惑してふたまたかける馬鹿男へ堕落させてしまえ、と伽彗ちゃん。なんて健全なる魂よ……。


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