●Entry7 墓そうじ 文字数=843
 四方 乃佐
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真夏、早朝、車の音。僕は祖父と町の高台にある、墓地へ歩いていた。
僕の頭はぼんやりとし、朝の町の雰囲気も、夜の空気がぬけきれずぼんやりとしていた。
ときおり車が通る音がする。セミの音は聞こえず、人の姿も見えない。僕は自分より小さな祖父の後ろ姿を歩いているあいだ見つづけていた。
墓地はすすけたヤカン、緑の柄のほうき、錆びついているひしゃく、そして木漏れ日をうけ、切なく懐かしいものをかもしだす。僕はこの様々なものが包まれた空気を嫌いではなかった。無論その中には死の匂いも含まれていたが、それ以外のなにかたくさんのものと交じり合った空気が、僕には優しく感じられた。
祖父はもうすが八十を迎え、僕はもうすぐ高校を卒業する。僕はたぶんこの土地を離れるだろう。そして毎年の僕と、祖父の墓そうじは今年が最後になる。大きなことよりこんな些細な事の方が哀しくなるな、と僕は思った。祖父も同じ事を思っているらしいのか、休んでいる間は何も話さなかった。突然、木陰にいる僕にチョコをくれた。不器用でしわくちゃな手と、心で。僕はチョコをほおばり、目をつぶる。泣かないためにだ。そばに咲く向日葵、青い空に浮く白い雲、すべてがたまらなく淋しく感じた。
日が昇りセミも鳴きはじめてころ、墓に水をかけ最後に少し手を合わせる。
手を合わせながら、
「俺ももうすぐ、ここにみんなと同じように入るんだなぁ」
少しなまった声で祖父が呟いた。その時の祖父の顔は言葉にできない。
悟りといった陳腐な言葉で表せるものではなく、ましてや何かをあきらめた顔ではなかった。あるがままを受ける、そんな感じだった。
その言葉は僕の胸をしめつけ、僕の胸を優しくなでていった。
結局のところ、僕らが死について言える事は何一つないのかもしれない。
時が来たら静かに橋を渡っていく人々の事を、目を閉じることさえできずに見つめる事しかできないのかもしれない。
だから僕は願った。僕がいた事で祖父になにかを与えられた事を。心の底から願った。セミが鳴くこの場所で、神にさえ願った。


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