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第13回中高生1000字小説バトル Entry6

死蝶

仄暗い空間の中で狂ったように舞う蝶。その蝶たちはひらひらと冥途へ旅立つ。暗い闇の中へと蝶は死んでいくのだ。そんな蝶をしげしげと見る綺麗な金色の衣服を纏った女性がいた。
彼女は無数の蝶の中でぽつんと立っていた。彼女の名前は、シナリ。
《貴女は何をしている》
遠方からわずかに聞こえる誰かの声。
それは多分死に果てた人々の思いが重なり作り上げた死の声。
「私は…死人を蝶に変え…救っているつもりです」
蝶はねじがはずれたかのように狂い舞う。死から逃れるために蝶は必死に飛ぶのだ。
《その死人の生まれ変わりの蝶が…生きていて楽しいのか》
シナリは口を塞いだ。シナリは死人の魂を蝶に入れ、わずかながらの間も生きさせようとしていたのである。でも、その蝶が生きていて楽しいのか?死に神にとりつかれたように舞う蝶に楽しさなどこれっぽっちも無いだろう。
「楽しくないでしょう」
《なら何故生かす?死人をなぜそこまで救う?》
言葉が出なかった。私のしていたことは何でしょうと。
死に絶えた人々を蝶にした過ちでしょうか。
シナリの心に重くのしかかる現実。
《ほら答えられない。蝶は…みんないつか死ぬんだよ!》
一斉にその声と共に全ての蝶の身体はガラスになり地面に落ち、割れた。一瞬にしてシナリの周りは割れた蝶のガラスの破片だけ。
冷たい空気が闇の異世界を支配した。
《魂だけの蝶だから…血も出ないのだ》
キラキラと光る蝶の偽の亡骸。それに寄り添うシナリ。でも、亡骸は亡骸。
シナリの作り出した蝶は血も流さない、所詮形だけのものだったのだ。
「どうして殺すのです!」
尋ねたけれども返事は来ない。
やはり人間は生と死を操ることはできないのだろうか?
《お前を殺して蝶にしてやろう。狂気蝶にな。》
私を殺して―――
始めて味わう死期。でも納得して死ねない。
生きたとしても蝶の姿なんて嫌だ。
「ちょっとまって…」
しかし遅かった。シナリの体中の皮が剥がれ、血がじんわりとにじみ出てくる。そして耐えられない痛みが頂点に達した時、シナリは死んだ。シナリの魂は闇の空間を彷徨った。蝶が飛んでいる。黄色の綺麗な紋白蝶だ。
…ああ…。シナリはその紋白蝶の身体を奪い、自らの魂を無理やり押し込んだ。
どうせ死ぬならばもっと安らかに死にたかった。
こんな無様な格好で死んでしまうなんて。

仄暗い空間の中で狂ったように舞う蝶。その蝶たちはひらひらと冥途へ旅立つ。暗い闇の中へと蝶は死んでいくのだ。

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