第14回中高生1000字小説バトル Entry14
小人は帽子を脱ぐと、紳士のようにぺこりとお辞儀した。すると周りの景色がすーっと変わった。そこはあの絵本の世界だった。
森の中、大きな木の前に小針は立っていた。おそらくその木が、主人公のリスの家だ。
高校生にもなって絵本の精霊に話しかけられたなんて、友達には絶対言えないな。小針は少しばかりうれしそうに苦笑した。
絵本の精霊は、赤い尖り帽子をかぶり、それとは不釣合な黒いマントで身を覆っていた。あの絵本の中には出てこなかったはずだ。
小人はもう一度言った。
「小針ちゃん、君が僕たちの世界を立て直すんだ」
絵本の世界は崩壊しかかっているらしかった。
空の青は褪せ、白くなった。緑の木々は、次々に黒く染まっていく。小針やあの大きな木を中心に、その周りの物の色が褪せていく。徐々に、徐々に……
「やめて!」
小針は叫んで、あの木に飛びついた。ぎゅっと抱きしめる。
ふと小針は、自分の色も消えてしまうのだろうかと恐怖を覚えた。
怖々目を開ける。
小針にはまだ色があった。あの木にも、小人にも。周りは白黒の世界。そこだけに色が残っていた。
小人はまた、帽子を取ってお辞儀した。
あの絵本の一場面だった。
誕生日を迎えた子供のリスが、家族に囲まれて席に着いている。
子供のリスと兄弟がケーキを取り合ってけんかを始めた。おじいさんリスは椅子にゆったり腰を掛け、目を細めてそれを眺めている。
そこにはにぎやかな色があった。そこには暖かい色があった。
「準備はいいね?」小人が言った。
「うん。」──私が世界を立て直すんだ!
小人はマントを広げた。中からたくさんの色が飛び出す。軽くお辞儀しながら、尖り帽子を小針に渡した。
小針が帽子を持つと、体がふわりと浮いた。色を帽子の中に集めると、空に上がっていった。
まず、空が黒く塗られた。その上に、赤白黄青が点々とちりばめられる。白くて大きな円も一つ描かれた。
小針は次々と色を塗った。世界に色を塗り終わると、空から月の光が降り始めた。
最後、帽子には青が残った。
小人は青い帽子を手に持つと、丁寧に深々とお辞儀した。木も空もリスたちもお辞儀した。小針は頬を赤らめた。
周りの景色がすーっと変わり、そこはもとの小針の部屋だった。
手に持った絵本の裏表紙の隅に、青い帽子の小人が印刷されていた。その出版社のマスコットらしい。
小針は、この絵本を親戚の子供にあげに行くところだった。