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第18回中高生1000字小説バトル Entry2

来訪者

 僕は僕じゃない何かになって、大空に飛んでいく。果てない宇宙に飛んでいく。僕だけの世界に飛んでいく。
 
 大好きな美咲さん、僕の5番目のお母さん。父さんの6人目の愛人。父さんのせいで泣いてる美咲さんを見るのは苦しいよ。苦しさでトゲが増えていく。
 いつしか心のトゲが僕の心を凍らした。僕は誰とも話さなくなった。美咲さんの存在が僕の中で抹消され、そして美咲さんが僕に言った。『ゴメンね。私もう、ここに来ないわ。』僕は何も言わなかった。
 
 ある日、庭の隅に髪の毛と目が銀色の男が立っていた。彼は僕を見ていた。僕は彼に言った。
「やぁ、僕は西木 有。あなたは?」
その男は言った。
「シェン。少年はここの家の子か?」
「そうだよ。」
 僕は家にシェンを招いた。何故招いたのか分からない。分かっているのは、彼を招きたいということだけだった。そして彼は来訪者だった。
彼は
「淋しかったのか?」
と聞いた。僕は首を振った。僕に淋しくないよ。僕は何も思わない。

「少年。」
しばらくして彼が口を開いた。
「私は人間じゃない。人間になりそこねた魔物。悲しみを食べて生きるんだ」
僕は頷いた。でも僕は悲しくない。両親は居ないけど、僕の世界があるんだから。
 僕は彼に言った。
「僕は悲しみなんて抱いてないけど、お腹がすいてるんなら僕を食べなよ。僕はシェンに食べられて、僕じゃない何かになる。やっと、僕の世界に行ける。僕はこれまでずっと虚無を見てきた。母さんが泣くのを見てきた。僕は無力さ。だけど、大空に飛んでいくんだ。果てしない大空に・・・。」
言ってたら涙が出てきた。なんでだろ?涙が出てくるのが不思議だった。彼はそっと僕に近づいて、僕の肩にシェンの口があてた。僕は目を閉じて、僕じゃなくなる瞬間を夢見た。
 美咲さん、あなたの本物の笑顔が見たかった。父さん、僕はあなたの息子だと思ったこと、なかった。あぁやっと、僕という呪縛から逃れれる。大空を飛ぶことができる。シェン・・・ありがとう。さようら・・・。
 
 いつしか、西木家のニュースは人々の噂からなくなっていった。西木家の一人息子が殺された。いや、死んでいた。でも、その顔は幸せそうだったという。
 少年。誰がお前を裁けただろう。愛を知らずに育った、自分であることをやめた子供。いつかお前も分かるだろう。愛される嬉しさ、愛せる幸せを。シェンはそっと呟いた。いつかお前も分かる時がくるだろう、と。

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