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第19回中高生1000字小説バトル Entry3

赤い剣

ゴンドラは、一国の皇太子となった。
第二王子であったゴンドラは、第一王子であるアムルが何者かによって殺害され、
否応なしに皇太子の身分となったのである。
ゴンドラとアムルは、兄弟といえども厚く高い壁があった。
当然ながら、アムルの方が第一王子故に優遇されることは間違いなく、公の場で久しぶりに顔をあわせることも少なくなかった。
ゴンドラは戴冠式を迎えるため、皇太子の礼服を身に着け、大広間に向かっていた。気候のせいもあり、王宮は風通しの良い造りになっている。侍従や衛兵、腹心のキルドに囲まれ、皇太子を扱う厳重な警備に緊張した。
心の中で彼は、アムルの死んでいく様を思い出し、胸が痛み、また不安になった。10歳以上も離れていたが、どこか慕う気持ちがあった兄の姿に、ゴンドラはしばし憧れていたのだ。
あの日、戴冠式の当日、アムルは侍従の中に紛れていたスパイによって殺害された。突然、少し離れたところにいた侍従の一人が、隠し持っていた短刀を振りかざした。素早く衛兵達が駆け寄り、アムルの周囲を取り囲んだ。アムルはそれを見て驚きもせず、ただじっと鋭く睨んでいた。ゴンドラは、驚愕した。傍らにいたキルドが、耳元でそっと囁いた。
「王子、感情を表に出してはなりません。今はただ冷静に待つのです。」
大広間は騒然となり、帝が呼んだ他の兵士達も駆けつけてきた。しかし、衛兵達も次々と倒れていき、最後までくい止めていたラドクリフも刺され、その場に倒れた。スパイの持つ短刀は既に赤い滴が大理石の床に滴り落ちて、水たまりだできていた。周囲はただ騒然としたまま、見守っているだけだった。
ゴンドラはその時、兄がこちらの方に目を向けるのを見逃さなかった。彼には、兄がかすかに微笑んだように見えた。その次の瞬間、アムルは刺され、スパイもその場で自ら命を絶った。
そして、ゴンドラは思い出したのだった。アムルがゴンドラに言ったことを。
「私は、王家の駒の一つにすぎない。それも、計算通りに動かなくてはならない駒にな。」
その頃から、隣国が軍事大国となって勢力を伸ばし、帝も対策を講じていたのだ。
「次の時代への踏み台としての役割も、そう悪くはないかな。」
そして、彼は寂しげな笑みを浮かべた。
大広間の手前まで来た時、ゴンドラは、ふいにキルドに言った。
「私は、兄上の分まで、がんばらねばな。」
ゴンドラは、遠くから「頼んだぞ」と言う兄の優しい声が聞こえたように思えた。

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