第19回中高生1000字小説バトル Entry5
おれは必死だった。今よりもずっと純粋に直向きに、馬鹿らしく思える程に必死だった。
自分が何をしているのか自覚など無かった。ただその行為とそれに臨む自らと云う存在が重要だった。一切は排除されていた。おれはただ必死だった。
生温い生温いと思いながら何度も繰り返した。
もっと致命的に傷付く事の出来る場所へ行きたかった。此処は独りでいるには寒く、凍え死ぬには暖かすぎた。中途半端だ。何もかも生温い。
おれはどうしようもない孤独ときつく無残な陶酔の中でひたすら自分の腕を刻んだ。
目を醒ますと病院だった。憎たらしい消毒液の匂いがおれ自身からも漂っていた。
何処からが傷で何処からが皮膚だかも見分けのつかないその左腕を奴は頻りに見たがった。おれの知る限りこいつはおれと同じかそれ以上に頭がイカれている。おれは純粋で正直な気違いだったが、こいつは気違いの癖に妙に小利口で口が上手く、事ある毎に他人の批判を口にせずにはいられない様な人間だった。つまりはおれなんかよりも余程も脆弱で救い難い男だったが、困った事におれはこいつを愛して止まなかった。認めたくもないが事実だ。おれはこの男を心から好きだった。
うるさく喋り続ける奴の相手をするのが面倒でおれは感慨なく腕を差し出す。奴は嬉しそうな間抜け面で歪な肉の膨らみを上から順番に舐め始めた。他人の事など云えた義理ではないがこいつも大概どうかしている。
濡れた舌の感触を感じながらおれは諦めた目をして冷たく奴を見た。陰惨な孤独の匂いが立ち篭め始めていた。こいつはおれよりイカれているから、おれはこいつの近くにいると厭でもその胃液の様に不快な泥濘の感触を思う事になる。そこはぬかるんで薄暗く、生温かった。独りでいるには寒く、おれの他にはこいつしかいなかった。寒々しい薄闇の中でおれたちは碌に目も開いていない犬の子供がそうする様にぎこちなく救えない遣り方で抱き合った。奴以外の熱を望む事は到底叶わなかったし、おれにはそうする事がどうしても出来なかった。
奴の舌がおれの肘の内側を舐める。紅く残った鬱血の痕を気に入ったらしい奴は長い事其処に舌を這わせて遊んでいた。こいつはおれより余程もイカれていて、その分おれよりも必死だった。誰よりも必死だった。
おれは堪らなくなって奴の頭を撫でた。救われないと知っている分だけその行為は虚しく、差し迫っていた。このまま凍えてしまいたいと心の底から願っていた。