第20回中高生1000字小説バトル Entry6
【私の手は骨張っている。
あの女独特の、滑らかさ、そして柔らかさ。
それが、私にはないのだ。
『何故?』
鏡の向こうに映る私へと投げかける。
短く整えられた黒髪。
鋭角的な輪郭。
そして喉の…、
「喉の…」
そこで私の思考は停止した。
混乱の中、私は自分の平たい胸に、震えるその骨張った手を寄せる。
しかし次の瞬間、その無意識の行動に、私は堪えきれず唇を噛んだ。
意識したくはなかったのだ。
この手と、そして胸の存在を。
15をとうに過ぎたというのに、この胸は何だろうか。
何の膨らみもなく、硬く平たいだけの胸。
そしてこの手は…
直線的でいて、無骨ささえ漂うこの手は…。
私は、
意識、したくないのだ。
―――自分が…、「私」が「男」であるこの事実を。
私の求める体は、この男の体ではないのに。
しかし私の体は決して女ではなく、歴とした男なのである。
この事実を、私は受け入れることは出来ても、納得することが出来ないのだ。
なぜ?
それは私が男でありながらも女として男を求め、そして愛したいと願うからだ。
同性へのこの思いを、人に言うことも出来ず、ただ自分が男であることの苦しみに震えている。
―――私は何なのだろう。
『秋雄』
そう名前を呼ばれる度に、苦しくなるのだ。
「それは私の名前じゃない」
そう言えたらどんなに楽だろう。
しかし、秋雄という名はやはり私の名前で、私が私であるというアイデンティティなのである。
私は秋雄として他者に認識され、そして私自身も秋雄であるという自覚を持っている。
なのに…なのにこの不安に心は何なのだろう。
男らしくと願う両親の気持ちを知らないわけではない。
しかし私は、男らしくどころか女性として生きたいと願っている。
両親の願いは叶えてあげたい。しかし女として生きて行きたい。
この矛盾をどうするべきなのか。
―――自分に素直に生きることは…なんて難しい。
もしも私が姿を変え、名前を変えたなら。
果たして両親は何と言うのだろう。
私のこの性癖を薄々と感じ取り、「病気」だといつでも身を固くさせている両親が…。
この難しさを…この困難を、突破できるほど私は強い者なのか。
ああどうして…。
私は、私では駄目なのか。
家庭で、外で、「俺」として生き、そして一人の時にのみ「私」として生活して行かねばならないのか。
病気なのならそれでいい。
ならば治してもらいたい。
女を愛す男に。
しかし願わくば…
男を愛する女に…。】
そう苦悩していた日々が、今では遠く懐かしい。