第20回中高生1000字小説バトル Entry7
山下中学校三年六組。窓側の後ろから三番目の席。
篠山千秋の席には、透明なガラスの花瓶に入った菊の花が飾ってあって、机には油性のマジックで「Cキラーのご冥福をお祈りします」とお世辞にも綺麗だとは言えない字で書いてある。
朝、チャイムが鳴るギリギリの時間に登校してきた千秋の、その幼稚で馬鹿げた嫌がらせに対する反応を見て、嫌がらせの張本人たちは満足そうに笑っている。
下らないな、と神崎隼人はそのやり取りを見ながら思った。
本来、笑っている加害者を叱るべきであり、被害者である千秋を慰めたりするべきなのかもしれない。
でも、はっきり言って隼人にはどうでも良いことだった。
クラスメイトだって四十二人いる。
その全員と仲良く装うこともないのだ。
もっと言えば、取り分け仲の良くもない千秋を助ける義務は隼人にない。
多分、今この教室の中で、傍観者のクラスメイトはそう思っているに違いない。
関係ない、そう誰もが思っている。
それを示すかのように、千秋に声をかける者も、助ける者もいなかった。
誰一人。
千秋はポケットから出したハンカチを取り出すと、ぐっ、と何かを耐えたような目で机の落書きを拭き始めた。
ただ拭くだけで消えるわけはないのだけれど、千秋はひたすら机を擦った。
「Cキラーのご冥福をお祈りします」
文字は消えない。
Cキラーと言うのは、千秋のあだ名だ。
「猫殺し」の意味から来ているらしい。
千秋のイジメの主犯格、相沢忠が飼っていた猫を千秋が殺した。
そう言う噂が二年の終わりに流れていた。
「猫」のCと、「千秋」のCをかけて「Cキラー」
なかなか洒落た考えたあだ名だ。
隼人は思った。
千秋は文字を拭き続ける。
でも、文字は消えない。
油性だから、当たり前だ。
隼人は心の中で思う。
誰か言ってやれよ。そんなんじゃ消えないって。
言ってやれよ。
「畜生っ!」
突然、千秋がハンカチを放り投げて叫んだ。
会話が止み、笑いも消えた。
「畜生っ、もう嫌だ!畜生っ!」
千秋がまた叫んだ。
四十一人の視線が、全て千秋に注がれる。
「お前ら絶対許さないっ!」
もう一度千秋が叫んで、そして飛んだ。
勢い良く、何の躊躇いもなく、三階の窓から。
静寂、轟音、そして悲鳴の順番だった。
この瞬間から、Cキラーは四十一人になった。
「ご冥福をお祈りします」