第20回中高生1000字小説バトル Entry8
セミの音、鳥の歌。木々のざわめきに、遠くを流れる小川の、ちゃぷちゃぷという不思議な音色。
広がる水田、ちょっと遠くには峻険な峰。
遠くから伸びる細い、舗装さえされていない小道。
林越し随分遠くまで見渡せる。
目の前のそれは、そういった情景にあまりふさわしくないようで――そう思っているのは、おとつい越してきたあたしだけみたい。
猫。
「名物だよ」
「なぶーってんだ」
昨日知り合いになった男の子たちが、口をそろえて言う。
「名物って……」。
猫は嫌い。気まぐれだし、突拍子もないことをするもの。
デブ猫だ。
毛並みふさふさのライトグレイ。ふよふよ宙に浮かび、亀みたくゆっくり前進している。あたしのことなんて、障害物にさえ思っていない間抜け面だ。
「非常識だと思うの」
空飛ぶ猫。
本来なら、もっとファンタスティックな感動があるはずなのに、この猫はどうも生活臭くて、そういう「うわー」感とか「すてきー」フィールとかが、絶望的なぐらい欠けていた。
猫を突付いた。暖かくて、やわらかかった。
デブ猫は、突付かれてもまったく気にならないようだった。そこがさらに腹立たしい。
「まぁ、名物だから」
「名物は温泉饅頭だけで十分!」
「にゃーても、ここ温泉ないしなぁ」
男の子の態度はふにゃついている。
これだから田舎ってのは。と毒づいて(よくわからないね)猫を見た。
猫は、ちょっと進んでいた――どうやら、小道を道なりに進んでいるみたい。空飛んでるんだから、もっと便利な飛び方すればいいのに。
猫は速度を上げた。
「あっ、まちなさいよ!」
あたふたと追いかける。妙な意地で捕まえてやると手を伸ばす。
猫を捕らえるその瞬間、猫は、進行方向を直角に変えた。
突如スローリィなペースから一転しジェットの如く天空へと駆け上っていく。
『ばひゅ〜〜〜ん!』てな感じだ。
そして猫は点になった。その点も、太陽の中へ消える。
呆然。
猫を見送るあたしの横で、男の子がつぶやいた。
「猫は、きまぐれだからなぁ」
……そういえば、この子の名前知らないや。
その夜。
あたしは何をとち狂ったんだか、家の2階からお空へ飛んだ。
なんか、飛べるような気がして。
結果はお約束。足を折って入院した。父親はやっぱり都会に帰るといっ て、母親は土地まで買ったんだからといった。
どうでもいいけど、入院中あの猫が来た。
本当にどうでもいいけど。